無職転生Ⅲ 第5話「お祝い」ネタバレ感想

 無職転生Ⅲの第5話「お祝い」は、タイトル通りの祝い尽くしの回である。ただし「一度は通り過ぎてしまった祝い」という喪失と回復を構造に持つ神回だ。式を挙げなかったロキシー、転移事件のさなかで5歳と10歳の節目を祝えなかったノルンとアイシャ。過ぎてしまった日であっても後から埋めていける。そんな原作の根幹をなすテーマを巧みに撚っている。

ネタバレ回避のあらすじは以下。

クリフとエリナリーゼの結婚式が聖ミリス教会で執り行われ、ルーデウスたちは二人を祝福する。そんな中、ノルンとアイシャの十歳のお祝いをしていないことに気づいたルーデウスは、二人へのプレゼントを買うためにシルフィエット、ロキシーと共に街に繰り出す。そして、ついにルーデウスの念願が……。

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「今」祝えることの幸せをOP結婚で提示 

 5話のアバンは、酒場でエリナリーゼと差し向かいの場面から。クリフが結婚式の準備で忙しく「3日に一度しかしてもらえませんの」とご不満のエリナリーゼさんである。そこから話は「シルフィーとロキシーを二人同時に相手してるんでしょ?」の方向へ転がり、「大人数でするのは、結構いいものですわよ。一度ぐらいやってみては?」とのっけから悪魔的だ。

窓辺で物憂げなのはクリフが惚れたきっかけですよ。完全に狙ってますよ

 さすがに抗うルーデウスも、「二人には私から根回ししてあげてもよろしくてよ」の一言で陥落。ただ私にメリットが無いのは…と求める対価は、アスラ王国の秘蔵の媚薬。何に使うのかと聞けば「結婚初日ぐらい、野獣みたいなクリフに責められてみたいんですの」と直球である。

 そしてオープニング。今回の趣向は、台詞入りの結婚式をそのままOP映像に使うことだ。誓いの言葉、ミリスの首飾り、背伸びして首飾りをかけるクリフに「ごめんなさい」と詫びるエリナリーゼ、とミリス教徒の結婚式が描かれる。

 原作では結婚式こそが第七話の本編で、教会の描写から神父の祝詞、参列者の顔ぶれまでまるごと一話分を割いて描かれる。それをアニメはOPに畳み、本編には式を一切残さなかった。思い切った判断だが、これは正しい。今回の主題は式そのものではなく、式を持てなかった者たち——それを取り返そうとする祝い事を紡いでいくことなのだから。

原作ではクリフがあまり背が伸びなかったルーデウスが述懐

シルフィとロキシーの紐帯

 Aパートは結婚式帰りの一家から。正装のまま「式は必要ありませんが、ほら、分かるでしょ」とおでこを見せるロキシーに、ルーデウスがキスをする。

正装のロキシー。これは合法

 ミグルド族に式の習慣はなく、二人は式を挙げていない。だからこれは、ルーデウスなりのささやかな埋め合わせだ。すかさずシルフィーが「僕にも僕にも」と割り込み、ノルンのおでこにまで飛び火する。嫌がりながらも満更でもないノルンと、抱きついて足まで絡めてリーリャに叱られるアイシャ。

シルフィは何というか正妻ですよ。最終決戦の殊勲甲だし

 この賑やかさの只中で、ルーデウスがふと気づく。二人とも、5歳と10歳のお祝いをしていないんじゃないか、と。転移事件のさなか、パウロにそんな余裕はなかっただろう。こうしてサプライズパーティーが決定し、収穫祭で賑わう街へプレゼント選びに繰り出す。ただし今日の目的はそれだけではない。エリナリーゼの「根回しはしっかりしておきましたわ」が、ここで効いてくる。

 プレゼント選びの場面でさりげなく効いているのが、ロキシーとノルンの距離感だ。「ノルンちゃんって何が好きなんだろう?」と悩む面々に、ロキシーが「鎧とか剣とか馬とか、男の子っぽいものを好んでいるようですね」と即答する。よく知ってますねと驚かれて、「私も、彼女とは仲良くなりたいんです」と返す。ずっとぎこちなかった二人の関係が、この一言でBパートの釣りに繋がっていく。

手に取った帽子の値段に驚愕するロキシー

 原作でこの場面は、第八話「両手に花」の買い物パートそのままである。ロキシーがノルンの好みを把握しているという細部は、普段から観察していることの証拠で、アニメもそこをきちんと拾った。

 そして夜、予約した宿へ。ところがシルフィーもロキシーも、この宿のことを知っていた。エリナリーゼから聞かされていたのである。アバンで仕込んだ「根回し」がこれだ。

 「ルディは変態ですね」と言われつつ、覚悟は決まっている。「実は、部屋を」——人生で一度は言ってみたかった台詞、というモノローグ付きである。「改めて聞くけど、僕と一緒で大丈夫だよね」「はい、覚悟していました。よろしくお願いします」。今夜は最高の一夜になりそうだ、でAパート終了。

無職転生ってこういう話ですからね。人生ですからね

 このAパート、ほぼ全編が下心で回るので、ライトな層には少しキツいかもしれない。原作のこのくだりはカラッと乾いた笑いなのだが、映像になると湿度が上がる。ルーデウスの内心のツッコミ——「復活のキリスト」「宝島は本当にあったんだ」等のモノローグ芸——が刈り込まれ、行為の段取りだけが残るからだ。どうしても生々しくなるのは、この作品の下ネタを映像化するときの構造的な難しさだろう。

ノルンとロキシーの紐帯

 Bパートはサプライズ誕生会の決行日。準備の間、妹二人とロキシーを外へ連れ出す口実が釣りだ。ノルンとロキシーの距離を縮める狙いも兼ねているあたり、この兄はちゃんと考えている。

 やったことがないと言いつつ、臆さず釣り針に虫を刺してみせるアイシャ。一方で途方に暮れるノルンへ、ロキシーがおずおずと「私が教えましょうか」と申し出る。ずっとぎこちなかった二人が、釣りという手仕事を挟んでようやく並んで座る。

 交わす言葉がいい。一人旅の頃は自分で食べ物を取らねばならなかった、というロキシーに、ノルンが返すのはルイジェルドの思い出——槍で水中を突いたら穂先に魚が三匹ついていた、という旅の記憶だ。二人をつなぐ共通言語が「旅」であり「サバイバル」だ。

 ロキシーの「引いて、引いて、頑張ってください」の手ほどきでノルンが一匹を釣り上げる。「仲良くなるのは時間の問題だったみたいだな」というルーデウスの独白通りである。

魚は異世界風

 肝心のルーデウスは、アイシャに爆釣され、釣り上げたのはお約束の長靴。そこで持ち出すのがエレクトリックだ。ライトニングの極意は圧縮にある、ならば雲の大きさを最初から抑えれば威力を落とした雷撃になる——と、前回覚えた水王級魔術の応用を披露する。もちろん「魔術はズルだよ」と即却下。

エレクトリック。後の決戦兵器である

 原作でここに登場するのは魔眼である。一秒先を読んで釣ろうとして長靴を引くオチだ。それをアニメはライトニングの応用としてルーデウスが練習するエレクトリックに差し替えた。威力を抑えたエレクトリックは相手を痺れさせる技として、この先かなりの出番がある。

遅れてきた10歳と、贈り直された帽子

 帰宅すると、シルフィー、リーリャ、ゼニスが出迎える。誕生会の始まりだ。「フィットア領の転移事件から7年。長かったけれど、ようやく家族が揃った」から始まるルーデウスの挨拶は、ほぼ原作のまま。父さんはいなくなり母さんも元に戻るか分からない、けれどいつまでも悲しんでいたら父さんもいい顔はしないはずだ——という言葉で乾杯となる。ベガリット大陸でパウロと交わした「みんなで再会できたら盛大に祝おう」という約束を、ここで正式に果たすかたちだ。

家長として挨拶
目に入るのは、パウロの子たちと形見の剣

 誕生日のプレゼントを開ける二人は、おもむろに包みを開けようとしていったんかしこまり、丁寧に紐をほどいていく。教育の賜物でよい。

 プレゼントで貰った服を手に、一緒に出かけようと話しかけたノルンに、ゼニスが笑いかける。記憶の戻らない母が、娘の成長に微笑む。ノルンとアイシャの頭を順に撫でるゼニス。リーリャとゼニスからもお揃いのハンカチが贈られ、「あたしももらっていいの?」と躊躇うアイシャに、「ええ、もちろんですよ。あなたもパウロ様の娘、ですからね」と返る。そのリーリャの手に、ゼニスがそっと手を重ねた。

ノルンに微笑むゼニス

 ゼニスが笑うシーンは、原作では「一瞬だった。俺だけが見たのかもしれない」と書き、その後に全員が見ていたとルーデウスから見た描写になっている。アニメはこの「一瞬」を、割とゆったりと、微笑んだ表情のまま分かりやすく演出した。これは好みが分かれるところだが、優しいシーンなのだからこれでいい。これでいいよ。

 締めがロキシーへの結婚祝いだ。式を持たなかった彼女に、シルフィーから箱が渡される。中身は、買い物のときに値札を見て諦めた、あの帽子。「前に僕は運が良かったって言ったの覚えてる?」——4話の帰り道の会話がここで回収される。ルディと会えて僕の人生は変わった、だからルディの人生をいい方向に変えてくれる人がルディに好意を持ってくれて嬉しいんだ、と。そして「僕らもゼニスさんとリーリャさんみたいになろうね」。この台詞は原作の第九話そのままである。諦めた品が祝いの形で戻ってくる。この回の全部が、この一箱に詰まっている。

自分を気にかけてくれていることこそがうれしい

 劇中歌「ひかり」が流れる中、ルーデウスはパウロの剣に盃を捧げる。パウロが望んでいたのはきっとこんな光景だったのだろう、と。原作の第九話はシルフィーの「僕らもゼニスさんとリーリャさんみたいになろうね」で幕を閉じる。この献杯はアニメの追加だ。ベガリット大陸で交わした約束を、その場にいない父へ報告するように盃を置く。祝いそびれを取り戻す回の最後に、どうしても取り戻せない祝い——父の不在——を置く。この構成は巧い。

ルーシーが笑ったことを皆で喜ぶ。ルーデウスの心配が一つ減った

 今話のエンディングは通常版。絵コンテは2期でノルンとルーデウスの和解3部作(第16話「兄貴の気持ち」から第18話「ターニングポイント3」まで)を手掛けた伊藤智彦氏だった。

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 挿入歌「ひかり」は作詞が大原ゆい子、歌が安保心結。これからを期待させる歌声がありがたい。

次回は「修羅場、再び?」

 次回は原作13巻の第十話。タイトルからして不穏だが、Web版にはいなかった彼女の登場です。なお第三話「トレーニング・ウィズ・ノルン」は今回も見送られ、これで3話連続。ノルンのファンクラブ結成回なのだが、拾われる望みは薄いのかもしれんね。

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