無職転生Ⅲ第11話、いよいよ「ターニングポイント4」に到達だ。アトーフェとの戦闘を終え、一息つく間もなく物語がルーデウスの日記によって4回目の転換点を迎える。戦闘描写が少ないせいか、止め絵の美しさ、表情の細やかさで見せる神回となっている。
ネタバレ回避のあらすじは以下。
アトーフェラトーフェの追撃を振り切り、「ドライン病」に効果があるとされるソーカス草を手に入れたルーデウスたち。果たしてナナホシの病気を治せるのか…!? そしてルーデウスが久しぶりの我が家に帰宅した夜、ヒトガミが現れ助言を行う。ルーデウスがその助言に従おうとすると、謎の人物が現れる――。
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11話のアバンは、ルーデウスの悪夢から。アトーフェの親衛隊に仲間がやられ、自分もわしづかみにされて地面に叩きつけられそうになる。あり得た最悪の展開だけに、寝覚めの悪さがすごい。
そこで目が覚め、隣にはシルフィ。原作では、治療を受けたルディがシルフィのところへ行き、自分から抱きついて、その腕の中で眠る。アニメは悪夢からの目覚めを置き、無事だったと確かめるように抱き寄せる場面へ組み直した。失いかけたものの怖さがより伝わってくる。

そのまま特殊OPへ。クリフ先輩はキシリカから識別眼をもらったものの、見えるものの情報が押し寄せて制御に苦労している。色のついた文字がルディとザノバの前にもびっしり重なる視界。情報量が多すぎる。

Web版では、識別眼で分かるのはキシリカの知識にあるもの、と説明されるが、書籍版のこの場面ではその限定は解除されている。Web版の制約はマジックアイテムの面白さを膨らませるスパイスだが、それだとクリフの知識がキシリカに遠く及ばないことになる。全知全能とした方が物語としてはよいのだろう。
回復したナナホシ
Aパートはナナホシのお見舞いから。ソーカス茶を飲みながら頭を下げ、ルディに敬語でお礼を言う。いつもの張り詰めた態度は和らぎ、ずいぶんと雰囲気が違う。年上なのにぞんざいな口をきいてしまった、と言われて、前世の年齢を答えかけるルーデウスの戸惑いが面白い。
ナナホシはクラスに一人はいる程度の器量ということだが、このシーンに限ればトップクラスの少女として描かれている。目元は冷涼に、それでいて伏せた視線にも穏やかな表情があり、以前のやつれた姿からの回復が、そのまま反転した美しさになっている。戦って動き回る回ではないからこそ、こういう一枚の顔で見せてくれるのはありがたい。

もっとも憂いの原因は、ソーカス草で治療できたことと、この世界で暮らせるようになることとは別、というのがはっきりしたためである。体内の魔力を排出しても、この六面世界で生きている限りまた溜まる。病気は完治せず、帰還は生き延びるためにも必要なミッションだ。
ナナホシの性格を示すエピソードの一つ、帰還は所与のものとして、帰るまでに恩を返しきれないとして、ルーデウスに謝るシーンも見事だった。原作では、困ったら相談に乗ってほしいという話から、シルフィとの夫婦生活の相談まで具体例を挙げる。アニメはそこを広げず、お礼を言いたいナナホシと、気にしなくていいと返すルディのやり取りに絞った。彼女の殊勝な面を印象付ける脚本だ。
ペルギウスとのお茶会
場面が変わってペルギウスを囲むお茶会。ザノバがルーデウスの活躍を講談調で披露している。聞き手は、アトーフェを弱らせたルーデウスの魔術の話が楽しくて仕方ないペルギウス。ナナホシと同じく、こんな顔をする人だったのか、という対比になっている。

前回まで気難しさしか見えなかった甲龍王としての顔を崩し、破顔一笑、長年の恨みが晴れた喜びを恥ずかしげもなく見せるのがよい。ラプラス戦役で何度も煮え湯を飲まされ、仕返しをする前に親友カールマンから殺し合いを禁じられた。殺し合いは駄目だが、一方的に殴るなら構わない。その手助けをしたルーデウスへの好感度が振り切った状態だ。
褒美をやると言われたルーデウスは、戦う術を教えてほしいと願う。原作では召喚術を教わる話を挟んでから戦闘の稽古を頼むが、アニメは家族を守れる力が欲しいという思いを出し、そのまま笛を渡される流れへ進めた。アトーフェとの戦いを笑って振り返るペルギウスと、次も無事で済むとは思えないルーデウス。この温度差は大きい。

笛をゆかりのある場所で吹けば、クリアナイトが聞き届け、アルマンフィが迎えに来る。どこでも好きに呼び出せるという話ではないが、頼れる先ができたのはありがたい。10年に一度しか帰宅を許してくれないアトーフェの褒美とは段違いである。
場が温まったところで、ザノバが持ち出すのがルイジェルド人形だ。見舞いの場面の冒頭にも映っていたものが、ここで話の中心に出てくる。魔族嫌いのペルギウスにスペルド族の人形を見せるのだから、ルーデウスでなくても身構える。

だが、ザノバには切り札があった。ラプラスとの最終決戦で、ペルギウスを助けたルイジェルドへの借りである。ルーデウスは、一族の名誉を取り戻そうとするルイジェルドの事情を話して援護射撃する。師匠の技術を世に出したいザノバと、恩を返したいルーデウスの連携がよい。
魔族が好きになったわけではなくても、借りは返す。人形の販売を認めるペルギウスの返事は、その線を崩さない。気難しい相手を単におだてるのでなく、相手が認めざるを得ない話を通したザノバ。今回も仕事デキである。
その後はルーデウスによるシルヴァリル人形作成の実演までこなし、すっかり話が弾む。そこにアリエル様が、自分が王になればペルギウス像を用意すると持ちかけた途端、空気が変わった。像を作るより先に、王としてすることがあるだろうという指摘から、王とは何かの問答が始まる。
知識を得て、自覚し、大臣の意見を聞くこと、といった模範解答としては悪くない答えに、ペルギウスは首を縦に振らない。彼が知っているガウニスは、臆病で酒場の娘に色目を使うような男だったという。そんな人物が、なぜ真の王なのか。アリエルは自分の口で答えを出さなければ、協力を得られないことを悟る。

ここのアリエル様の憂いも珠玉の一枚だ。ナナホシの殊勝な顔、ペルギウスの遠慮のない笑顔、アリエルの困り顔と、座って話しているだけで次々に見どころが来る。今回の作画は、表情の味付けに力が入っている。
日記は形から
Bパートでは、ルーデウスとシルフィがようやく我が家へ帰ってくる。出迎えるアイシャとロキシーに、ナナホシのことやゼニスについて分かったことを報告し、留守の間の相談も済ませる。まだ宿題は残っているが、ひとまず風呂に入って考え事ができるところまで帰ってきた。
ペルギウスに会いに行って、ナナホシが倒れて、魔大陸へ行って、アトーフェと戦って。振り返ると短い間に事件が多すぎる。これでは反省も思いつきも古いものから忘れて、同じ失敗を繰り返してしまう、として、日記をつけることにしたルーデウス。
思い立ったらまず日記帳を作るところから始めるのが、いかにもである。木の板で表紙を作り、輪で紙を綴じるリングバインダー。人形の実演に続いて、こちらも器用な仕事を見せてくれる。

この工作はアニメの追加ではなく、原作でも紙束に穴を開け、土魔術で作った輪を通し、板と蝶番で表紙を組み立てている。紙に書けば用は足りるのに、現代社会の知識で小道具を整える。そういう小さなこだわりが、絵になると妙に楽しい。
そして書き始める字が、割ときれいだ。日本語で、縦書きで、漢字もきちんと並んでいる。異世界の魔術師が異世界の道具を使っているのに、紙の上は急にこちらの世界の日記帳になる。

今度こそ三日坊主にならないといいな、と思っていたら、そのまま眠ってしまった。初日からこれ。しかし続くのは寝落ちの笑い話ではない。
ヒトガミの頼み
久々のヒトガミである。白いもやもやの中に立たされ、ルディの姿も前世の男に戻る。ペルギウスの転移の際にも見えた白さを思い出すが、ここで待っている相手には、どうにも親しみが湧かないルーデウスだ。

話し始めは、近況を聞く旧知の相手のようだ。結婚生活は充実し、ペルギウスとも知り合いになり、アトーフェにも気に入られた。そこから電撃の話になると、闘気を無視して体を麻痺させるのがすごい、と持ち上げてくる。アニメはここで、闘気とは何か、なぜルーデウスは使えないのかという基礎の説明をヒトガミとの問答に入れた。強さを認める話のついでに、オルステッドにも通用するかもしれないと振ってくるのは伏線だ。
ルーデウスを悔しがらせたのは、ベガリット大陸へ行かなかった場合の顛末だ。あのときはヒトガミの助言を退け、ゼニスを助けに行く方を選んだ。パウロを失った後悔はあっても、ロキシーと再会し、今の暮らしにたどり着いた。その選択への自信を、ヒトガミはあっさりひっくり返してみせる。

ルーデウスが行かなければパウロは死なず、ゼニスもロキシーも助かっていたというのだ。あくまでヒトガミが語る、起こらなかった未来の話である。だがルーデウスに向かって、君がいたから父親が張り切って死んだ、と言い放ってしまう。最悪の神様である。
書籍版もWeb版も、ここでは商人の到着や迷宮の地図、別の冒険者の行動まで並べて、ヒトガミがもっともらしい筋道を語る。アニメはその説明を短くし、ルーデウスが行かなかった方がうまくいった、という結論を突きつける。長い理屈を聞かされるより、後悔の急所を直接つつかれる感じが強まっている。
それでもルーデウスは、今は幸せなのだと気を取り直す。過去をやり直せない以上、今あるものを否定しても仕方がない。そこでヒトガミが持ち出すのは、助言というよりお願い、実に小さな用事だった。
地下室に行って、異常がないか見てきてほしい。
大陸を渡れとも、誰かと戦えとも言わない。家の中をちょっと見てくるだけだ。ヒトガミは人を信頼させる呪いを持つが、異世界人のルーデウスには通用しない。しかしルーデウスはこれまで助けられたことを思い、今度は疑わずに言うとおりにしてみようと返す。あれだけ疑っていた相手にここまで素直になってしまうのは、現状に絶大な価値を置いているからだろう。
未来から来た
目が覚めたルディは、地下室へ行こうとして気配を感じる。振り返っても、誰もいない。気のせいだと流して、もう一度振り返る。ふざけて確かめたはずの視線の先に、今度は老人が座っていた。

ここは二度目の間が効く。一度確認した場所に誰かがいるだけで、馴染みの研究室が得体の知れない部屋になる。原作にも二度振り返るくだりはあるが、アニメのギャグっぽい振りからの切り替えは、実際に時間を使って見せる映像ならではだ。
老人は独り言のように、何かを確かめている。腹を押さえ、成功ではなく失敗だと呟く。どこから入ったのか以前に、そもそも何をしに来たのかが分からない。地下室へ向かうルーデウスを止め、ヒトガミに騙された、と告げる相手は、一体誰なのか。
その答えが、名前ひとつでルーデウスを凍りつかせる。
老人が名乗るのは、ルーデウスの前世の本名だ。こちらの世界では誰にも教えていない、思い出したくもない名前。アニメはそれを音声では聞かせず、がたがた揺れる窓と嵐の音の中で、老人の口の動きによって示す。
原作でも、この名前は伏せ字である。ルーデウスには聞こえたが、読者には明かされない。アニメもその距離を守りながら、音を塞ぎ、顔を見せて、知るはずのない相手に知られている怖さを作った。単に台詞を省略したのではない、見せ方のうまさだ。
ネタバレ感想だし、次回にすぐ分かるので言ってしまうと、老人は未来からタイムトラベルしてきたルーデウス本人である。原作では名乗りに続いて未来から来たと明かし、次の章で、今のルディと未来のルディが向かい合う。
転生して人生をやり直していた男のところへ、今度は、その人生を先に生きた自分がやってくる。部屋に老人がひとり増えただけで、今まで見てきた話の先がまるで違って見える。この転回の大きさこそ、無職転生の「ターニングポイント」だ。
最初は転移災害で日常が終わり、二度目はオルステッドとの遭遇、三度目はベガリットへ向かう選択だった。そのたびに、それまで積み重ねてきた生活が大きく揺さぶられた。今回は世界のどこかへ連れ出されるのではなく、自分の部屋に未来の方からやってくる。



そして、見慣れた最後のタイトルコール。いつもと同じ位置に出る「ターニングポイント4」が、今回は文字どおり、話の向きが変わったことを告げる。タイトルコールをいつ出すか、というのは演出の道具の一つだが、いつも最後に持ってきていることが、今回は効果を発揮している。

次回は「終わりと始まり」
ナナホシの回復も、ペルギウスとの茶会も、日記帳の工作も、すっかり遠い出来事になってしまった。老人は何を知っていて、なぜ今ここへ来なければならなかったのか。ヒトガミの頼みを聞く、その寸前に現れた意味が次回へ持ち越される。ここから怒涛の展開が始まるが、具体的に何が起きるかはさすがに伏せておこう。まずはこの名乗りの衝撃を受けたまま、次回を楽しみに待ちたい。

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