エリス修行編から一転、無職転生Ⅲの第3話「帰ってきた日常」は、タイトル通りシャリーアの日常へ帰ってくる回。原作13巻のさわりを一日に折りたたんだ構成で、ロキシーの教壇デビュー、クリフ先輩の説教、そしてザリフの義手のお披露目が続く。ベガリット大陸で失ったものと、帰ってきて戻ったものを数える、日常の棚卸し回だ。
ネタバレ回避のあらすじは以下。
ロキシーを第二の妻として迎え、シルフィエットと娘のルーシー、妹のノルン、アイシャたち家族と穏やかな日常を過ごし始め、ラノア魔法大学にも復帰したルーデウス。同大学でロキシーが教壇に立つことにもなり、妻として彼女を皆に紹介をする中、クリフは信教上それを許せず…。
https://mushokutensei.jp/story/3-03/
全員集合、おさらいのアバン
3話のアバンは、ロキシーを横に置いたルーデウスの目覚めから。眠るロキシーを拝んでから、優しく起こすルーデウスである。「お釈迦様のように」「尊いお方であるからこそ礼を欠かしてはならない」と、原作の白毫ネタを下ネタ成分を省いてから台詞に乗せてきた。自然である。原作勢には嘘をつかず、アニメ組には単なる尊みとして流せる描写になっている。
まあ演出として大事なのは、ルーデウスの体が前にも増してバッキバキな点かもしれない。パウロの助けがあったとはいえ、ヒュドラ戦を生き抜いた肉体は伊達ではない、というのを強く印象付けておかないと、この後のもろもろに対する説得力が薄れる。無職転生は無双系ではなく、たゆまぬ鍛錬こそが道を開くという、どちらかというとカイジ系だ。

続いて、家族全員の朝食前のひとときを描く。ルーシーを抱くシルフィー、ルイジェルドの本を書き進めるノルンのエピソードに回想で触れつつ、ゼニスの髪を梳いてやるノルン、といった具合だ。

ノルンとゼニスに挨拶するルーデウスだが、妻が増えたルーデウスにそっぽを向くゼニス。これは一見感情が無いしぐさに見えるが、そうではない。当然、ミリス教徒としてのゼニスの意志である。アニメ組は覚えておこう。
メイドコンビのアイシャとリーリャも登場し、アイシャが朝食を「いつもとだいたい同じでございます」と適当に紹介してリーリャにたしなめられるお約束の日常感がよい。
2期最終回から1年半、この長い間を置いての家族総出のアバンは、忘れかけた視聴者と3期から入った視聴者のための人物紹介を兼ねている。全員そろって「いただきます」で、アバンは終了だ。
無言のフィッツとロキシー先生
Aパートは三人揃っての登校から。ロキシーがこぼす不満は、学校のみんなに「師匠」としては紹介してもらえたのに「妻」とは言ってもらえなかった件だ。
原作ではこの不満、挨拶回りが終わった帰り際に出てくるのだが、アニメは登校中の会話に前倒しした。さらに「ねえルディ、僕には言ってくれないの?」とシルフィーが参戦するのはアニメの追加。往来で「二人とも愛してる」と絶叫するルーデウスと、「恥ずかしいですよ」のノルンまで巻き込んだ朝の風景に変換している。
この家族の空気の柔らかさが、今回の脚本の柱である。

ちなみにノルンは、ミリス教徒ながらすっかり兄への応援モードだ。2期で兄妹の関係をやり直した積み重ねが効いている。本当にありがたい。

学校に着くと、ノルンがクラスメイトに囲まれる人気者ぶりを挟んで、ジーナス教頭のお出迎え。「教師なんていらないと言っていたあのロキシーが、随分と変わりましたね」というやりとりは、原作だと数ヶ月前の面接シーンのものだ。
原作の13巻第一話は「現在の朝→数ヶ月前の回想」という構成なのだが、アニメは回想をバッサリやめて、教師志願から義手までの全部を「復学初日」の一日に再配置している。サブタイトルが「帰ってきた日常」である以上、一日を丸ごと描き切る形に組み替えたのだろう。日常回で時間軸を往復させない、地味だが効いている改変だ。
教室ではリニアとプルセナがお出迎え。「朝から女二人も連れて登校とは、いいご身分だニャ」は原作そのまま。ザノバとジュリにジンジャー、そして咳き込むナナホシである。
ナナホシは「しばらくはどこにも行かないんでしょうね」とルーデウスの魔力を使った帰還用魔法陣の研究再開を喜ぶ顔を見せつつも、体調は悪そうである。この咳、単なる風邪ではないのがつらい…
そしてロキシー先生が入場。ルーデウスの「2番目の妻となります」と教壇からさらりと爆弾発言である。

本人はいたって真面目に、教師と生徒の関係を紹介しただけである。シルフィの結婚式でミリス教の神父として登壇したクリフパイセン。もはや忘れそうだが、一夫一妻がミリス教の要である。
ロキシーの言葉を聞いてルーデウスを振り返るその顔は、怒りというよりは「やるねぇ」くらいのニュアンスで、ここでAパートが終わる。

クリフ先輩の説教(視聴者代表)
と思ったら、CM明けのBパートは、クリフ先輩の前で正座するルーデウスから始まるのだった。あの顔は許しの顔ではなかったらしい。
「ルーデウス、君には節操というものがないのかい」から始まる説教タイムは、ほぼ原作の台詞のまま進む。ミリス教徒として一夫多妻は看過できない。でも君はミリス教徒じゃないから何も言わない。いや、むしろ祝福するよ。おめでとう。言うべきことは言いつつも、友人として理解し、現実的に解釈を重ねていく。この着地の仕方がクリフパイセンの真骨頂である。

ザリフの義手を完成させたザノバ
説教が済むと、クリフは話題を変えて片手を失ったルーデウスを気遣う。そこからザノバの「この半年の研究の成果」のお披露目へ。自動人形の解析から生まれた、己の思い通りに動く手の魔道具である。
原作では帰還一週間後の回想の中で、ザノバと二人きりの場面なのだが、アニメはこれも復学初日に移動したうえ、クリフとジュリを同席させた。原作のクリフは「協力してもらった」と名前が出るだけ、ジュリに至っては買い出しで不在だったのだ。失った左手が日常の中に戻ってくる瞬間を、仲間全員の見ている前でのお披露目に変える。日常回のクライマックスをここに置く設計で、これは巧い改変だと思う。
「土よ、我が腕となれ」の詠唱で装着し、魔力を込めた分だけ怪力になる仕様。ザノバにとっては神子の怪力を抑えてフィギュア製作ができる発明でもあり、長年の夢の詰まった籠手なのだ。
装着テストの後は外に出て、岩砲弾と水魔術で「義手越しの魔術に支障なし」まで確かめる念の入りようである。

義手の名付けを頼まれたルーデウスは、ザノバとクリフの名前から「ザリフの義手」と命名する。「俺は関わってないんですから」と自分の名前を入れない締めも原作通りだ。
ペースメーカー、アイシャ
帰宅すると、アイシャの「ご飯にする? お風呂にする? それとも…」のお約束。くすぐられて笑いながら、くすぐっているのが新しい左手だと気づくアイシャである。義手が戦いの道具ではなく、妹をくすぐる手として日常に馴染んでいくのがいい。

夕食も朝と同じく「いつもとだいたい同じでございます」でリーリャにたしなめられる。朝と夜、同じやりとりで一日を挟む。「いつも」が戻ったこと、繰り返される日常が手元にあることを、構成そのもので言っている。よく見ると、タイムキーパーの役割をしているのがアイシャなわけで、これも構成として強い。
食卓で皆を眺めるルーデウス。前世の男の独白で、フィットア領の転移事件からこれまでを振り返る。「いつもの日常が戻って、これからもこのいつもを大切にしていこう」と。

ラストは御神体への礼拝。「日常を取り戻した俺は、こうして今日も静かに祈るのだ」と、原作第二話の締めそのままである。
ただし祈りを捧げる御神体は、アニメ版と原作で異なるようだ。
原作13巻時点の祭壇に鎮座するのは「布と布」、ルビはロキシーとシルフィという、前者はパンティとして、後者はあの時のアレというまあ変態っぷりなのだが、アニメで祀られているのはロキシーのパンティだけである。1期以来の聖遺物を続投させる置き換えで、アニメだけの視聴者にも一発で通じる小道具に差し替えている。

ロキシーだけ別格、という構造に違和感はないので、これでいいのだろう。
そしてようやく登場した通常エンディング。中身は3DCGで描かれるエリス修行編だった。これ、3期の1クール目はずっとこうなんだろうか。待たせたわね、でクライマックスなのだから、それはそうか。3期の主役はエリスなのだから。

次回は「水王級魔術師」
今回で13巻の第一話・第二話を消化。次回は原作の第六話「水王級」のようだ。原作の第三話「トレーニング・ウィズ・ノルン」から数話は割愛するか、少しずつ描写していくのだろう。
なお、トレーニング・ウィズ・ノルンはノルンに剣の稽古をつける話だが、既に2期最終回だ。ノルンに剣の稽古をつけながら「納得いかないんですけど!」を言わせたアニメ版オリジナルシーンで消化済みといえば消化済みだ。

コメント