本当の「本物」ってやつを魅せてやりますよ
俺ガイル完の第11話は、八幡が「本物」を手に入れる回だ。本物とはゴールではなく過程であって、それは人の言葉や仕草、表情で紡がれるものだ。映像でしか描けない本物ってやつを見せてやりますよ、と言わんばかりの神回だった。
ネタバレ回避のあらすじは以下。
脚本:大知慶一郎 / 絵コンテ:鈴木龍太郎 / 演出:鈴木龍太郎 / 作画監督:五十子忍、林 信秀、川島 尚、穂積彩夏、細田沙織、立田眞一、古山瑛一朗
https://www.tbs.co.jp/anime/oregairu/story/
八幡をバッティングセンターに誘った平塚。
落ち込む八幡に平塚は最後の言葉を贈る。
「その一つ一つをドットみたいに集めて、君なりの答えを紡げばいい」
たった一つの本物を求めた八幡が出した答えとは、そして3人の関係は?
本物にたどり着くすべを与える平塚先生
始まりは前回の末尾、平塚先生とのバッティングセンターでの対話から。前回、自分が原作で好きだった対話の中の1シーンが無いので少し落胆していたのだが、冒頭のアバンでじっくりやってくれた。
紙ナプキンに想いを書きなぐり、そこを塗りつぶすと「スキ」の文字が白抜きで浮かび上がる、というシーン。このシーンに、OP曲無しでクレジットが入るという特殊オープニングでのスタートだ。
「一言で済まないなら、いくらでも言葉を尽くせ。言葉さえ信頼ならないなら、行動も合わせればいい」
八幡のモノローグでは、バレンタインイベントの回想シーン、陽乃さんに「これが本物?」と言われたあの場面が新作画で入る。
ここで場面は自宅に移り、電気の消えた自室で八幡は、ディスティニーランドで撮った八幡・雪ノ下・由比ヶ浜のスリーショットの写真を見ながら「故意に間違う俺の青春を終わらせるのだ」と決意する。
ここは原作では見覚えが無かったシーンで、偽物を振り切り、二人のうちどちらかを選ぶ、という今後の展開を示唆するものだ。
由比ヶ浜の「全部欲しい」の複雑さは表情で
CM明けは、下駄箱前で八幡を待つ由比ヶ浜のシーンから。
大人びた表情で下駄箱に寄り掛かる由比ヶ浜を見て言葉を失う八幡。八幡は原作では声をかけそびれ、由比ヶ浜は八幡のローファーが床に落ちた音でようやく振り返る。アニメ版では、由比ヶ浜は普通に八幡に気が付き、声をかける。アニメ版だけだと、凛とした由比ヶ浜に見とれているようにも受け取れる。案外、こちらが本心に近いのかもしれない。
公園で話し込む二人。八幡が手に持つのは今度はマッ缶である。原作だと由比ヶ浜が八幡に荷物を持ってもらったお礼のコンビニ紙カップ・アイスカフェオレだ。健気さは薄れているが仕方がない。
このシーンは、原作では細かく描写されない由比ヶ浜のリアクションがよく分かる。
「俺はあいつと関わりがなくなるのが嫌で、それが納得いってねぇんだ」
という八幡の言葉を受けて、原作では「由比ヶ浜も驚いていたようだった」でサラッと流す。
ところがアニメ版では、正に驚愕、ヒッキーがそんなことを言うなんて!とばかりに目を見開く。そうだよね。だって初めて八幡が雪ノ下への想いをストレートに言葉にしたのだから。
そしてその後、ただでさえ尺が足りないところに、15秒も沈黙する。由比ヶ浜の驚きを示す口元のアップから、
「関わり、なくならないんじゃないかな」とようやく声を絞り出す。
そしてここから、由比ヶ浜の表情はしばらくうかがえなくなる。約36秒。この間の不安たるや。
「ていうか、ヒッキー、伝える努力してないだけじゃん」
でようやく真向かいになる由比ヶ浜。全部欲しい、という最後のお願いを八幡に伝えるものの、八幡は既に前の八幡とは違う。いや、元に戻ったというべきか。いずれ、言葉が理屈をこねくり回さなくても心を通わせられるようになる、と語る八幡。がしかし、次の言葉で由比ヶ浜を解き放とうとする。
「お前はそれを待たなくていい」
この時の由比ヶ浜の反応は、原作では「困ったように笑う」で済ませているが、何を見ているのだ八幡、とばかりに表情を描き出す。
この失恋は何度目なのか。そりゃAmazonレビューも荒れるわ。でも荒らすなよ。
自宅前で明るく八幡と別れる由比ヶ浜だが、もう限界だ。玄関でサブレを撫でながら号泣する。
訳も聞かずに、(目が)腫れちゃうからそのままね、と声をかけ抱きしめるガハママさん。
見ているこちらも限界だ。
カットどころかアニオリのいろはす名セリフ
あれ、エンディングじゃないの?とばかりに濃密なAパートが終わり、CM明けのBパートは生徒会室で材木座と遊戯部の二人を問い詰めるいろはすから。
サイコウプロジェクトこと当て馬プロムがなぜか復活し、サイト更新。原作だとサイトデザインに感じる女っけから由比ヶ浜にいろはすがLINEで聞き、そこから材木座一党が主犯だと当たりをつけるのだが、そんなことはカット。さっき号泣してたからガハマさんは。もう勢いだねここは。
で、主犯
原作ではプロムの挨拶にきたははのんを「ババアなんか言ってました?」呼ばわりしていたいろはす。アニメではカットさえ無念だったのに、このシーンで強化版が聞けるとは。
「あのババアが来たってことは絶対面倒なことになるじゃないですかぁ」
「あーめんどくさい。意味わかんない。ババアまじめんどくさい」
とても良いです。
馬鹿に本物を見いだす陽乃
時を同じくして応接室。ははのんと陽乃さんが合同プロムにいちゃもんを付ける。対応するのはプロムの責任者である雪ノ下、首謀者の八幡、そして平塚先生だ。
すべては雪ノ下を合同プロムに引っ張り出すための八幡の罠。プロフを無事終えた雪ノ下に、大規模な合同プロムを予算ゼロ・時間僅少でやらせようとする無茶ぶり。失敗は明白で、もはや雪ノ下家の問題と言うははのんと陽乃さんに対して、八幡は「責任をとる」と宣言することでイニシアティブを取る。
これは雪ノ下家の問題への責任を取る、という意味なので、なぜそこまで?とゆきのんは思うわけだ。その表情がこれ。
間尺に合わない八幡の行動を、これまでにない表情で優しく「馬鹿だ」と評する陽乃さん。本物なんてあるのかな…という前回の陽乃の答えを見せつけられ、お姉ちゃんモードに入っている。
合同プロムを成功させる手段は、お宅の娘さんだけ。そう挑発する八幡に、ははのんは雪ノ下に判断をゆだねる。
当然、負けず嫌いの雪ノ下さんは「安い挑発ね」と引き受けるのだった。
良すぎるのでもう一度言ってください
合同プロムの落とし前を付け、雪ノ下と下校する八幡。
無茶ぶりを責める雪ノ下に、「あれしかお前を関わる方法がなかった」と吐露する八幡。
由比ヶ浜のお願いを叶えて、といった雪ノ下は、八幡を責める。
八幡は、そのお願いは、なんでもない放課後にみんながいる場がほしい、全部がほしいのだという願いなのだと説明はするも、納得はしてもらえない。
八幡を振り切るように先に進む雪ノ下に、八幡は「距離を置いたらそのままどころか、もっと離れていく自信があるぞ… だからっ!」と言い放ち、後ろから雪ノ下の手を握る。
「手放したら…二度と掴めねぇんだよ…!」
えっ。原作だと袖口を握るだけなのに、思いっきり手をつかんでいる。これは八幡視点だと袖口つかんだつもりが客観的には完全に手を握っていますごめんさい、ということなの。
かと思えば、原作通りに八幡の手が離れた自分の袖口を抑えてみる。これがまた原作ではつかまれた場所をきゅっと握るところ、アニメでは緊張を解きほぐすように袖をさするのだ。これ、動揺を抑えようとする雪ノ下さんということになって、八幡の言葉を必死で追おうと落ち着こうとしているようにも見えて、実に良い。
そして平塚先生が言ったように、言葉を尽くす二人。回りくどく気持ちを伝え、八幡は
「諸々全部やるから、お前の人生に関わらせてくれ」
と言う。雪ノ下の反論に、いちいち回り道をしながら、けなすかのように、答える八幡。
雪ノ下は、私はちゃんと言うわ、と、八幡の肩口に遠慮気味に顔をうずめながら、
「あなたの人生を、私にください」
あー、もう、良すぎるのでは? いや原作の時点で既に壁殴りシーンなんですが、映像では感極まるな。ゆきのんよかったね…
エンディングロールは白背景で
そして雪ノ下エンドのエンディングロール。由比ヶ浜エンドは黒背景に白文字だったが、こっちは白背景に黒文字だ。
そして雪ノ下バージョンのダイヤモンドの純度が流れる中、身体に走る軽い電気を感じながら放心するのだ。飲むか。
次回予告は、当然のようにあのセリフ。そしてタイトルも。
コメント