無職転生Ⅲ 第13話「日記」ネタバレ感想

 13話「日記」は、未来から来た老ルーデウスが遺した一冊を、ルーデウスが自分の半生として読み切る回だ。ロキシーが倒れ、治療用の聖典を盗みに行き、クリフやシルフィを失い、家族が散り、最後にはエリスが死ぬ。そのすべてが映像となるのは慙愧の極みだ。

ネタバレ回避のあらすじは以下。

「ナナホシに相談しろ。エリスに手紙を送れ。ヒトガミを疑い、敵対はするな」それが未来のルーデウスが遺した言葉だった。老ルーデウスの託した日記帳を開くルーデウス。そこに記されていたのは、ロキシーの死から始まる、未来の自分が歩む壮絶な半生だった。

https://mushokutensei.jp/story/13-2/

終わる日常

 13話のアバンは、日記がまだ「普通の日記」だったシーンから始まる。猫の変死体の噂、エリナリーゼの妊娠、ロキシーとの子供についての独り言。手洗いとうがいを徹底するように、と家族に指示するルーデウスは、前回で老ルーデウスが「たるんでいた」と評した日常そのものだ。

無職転生Ⅲ 第3話「帰ってきた日常」ネタバレ感想
エリス修行編から一転、無職転生Ⅲの第3話「帰ってきた日常」は、タイトル通りシャリーアの日常へ帰ってくる回。原作13巻のさわりを一日に折りたたんだ構成で、ロキシーの教壇デビュー、クリフ先輩の説教、そしてザリフの義手のお披露目が続く。ベガリット大陸で失ったものと、帰ってきて戻ったものを数える、日常の棚卸…

 その日常が突然終わる。

識別眼でロキシーの脚を見て病名を告げるクリフ
魔眼で魔石病の診断を下すクリフ

 ロキシーが倒れる。上級解毒も効かない。クリフが識別眼で見て「魔石病だ」と告げ、神級の解毒魔術でしか治らない難病だと説明する。

魔石病

 ロキシーを救うにはミリス神聖国の聖典しかない、というクリフ。ザノバとともに赴くが、その代償は苛烈だ。転移遺跡でミリス兵の奇襲を受ける。戦闘の余波で魔法陣が壊れ、退路が消える。

 戦闘の結果、「俺は初めて、人を殺した。」という短い告白がここで入る。原作の日記でも、この一文は前後の説明から切り離されて、ぽつんと置かれる。ルーデウスにとってのポイント・オブ・ノーリターンだ。

久しぶりね、と笑いかけるエリス
最悪の登場タイミングを披露するエリス

 命からがら帰還する二人。町の入り口でエリスとギレーヌに出会う。エリスはルーデウスの武勇伝を列挙し、そのルーデウスと肩を並べられるだけになった自分を誇らしげに宣言する。

 「私は強くなったわ」「夫婦になりましょう」

 ルーデウスの返しは冷たい。最悪のタイミングだ。「俺にはもう妻が二人いる」「お前の相手はできない」。ザノバがとりなそうとするも「今はロキシーだ(なんでいまさら)」と切って捨てる。

 原作の日記だと、断り文句は「すでに二人も妻がいて、お前の相手はもうできない」で、すでにいる妻を理由にしている。アニメでは「今はロキシーだ」と、明確に今わの際にある妻との対比とした。

 エリスが何も知らずに笑いかける場面を、ロキシーが死にかけている現実と対比させる。「強くなった」は純粋な報告で、悪意はこれっぽっちもない。エリスを切り捨てるルーデウスに反感を持ちようもない。原作より二人の噛み合わなさが際立っている。

追いつけずに涙するルーデウス
間に合わず、涙するルーデウス

 手遅れだった、と日記は書く。「今日はもう、何も書きたくない。」この短い一行が、それまでの日付入りの記録を断ち切る。日記には書かれなかった情景を、ルーデウスの頭には浮かんだ最悪を、アニメ版は当然描き切る。

荒むルーデウス

 ロキシーの葬式の後、ルーデウスは酒に沈む。シルフィは「元気出してとは言わないよ」と前置きして、家族に向き合ってほしいと告げる。自分の身体を好きにしていい、という言葉にルーデウスは逆上し、シルフィは泣いて部屋を出ていく。

 その後、リーリャの小言がうるさくなって外で吞むようになり、娼婦に手を出するーデウス。店を出たところに鉢合わせたシルフィは泣きながら走り去り、家を出ていく。

 置手紙を残して、シルフィはアリエルとともにアスラ王国へ向かう。ここで初めて、ルーデウスは自分が取り返しのつかないことをしたと理解する。追いかけようとする気力と、「俺に追う資格はあるのだろうか」という諦めが、同じ場所でせめぎ合う。

 ゼニスがルーデウスの頬を叩いたところで暗転し、馬車の上の人になるルーデウス。原作ではゼニスはルーデウスを何度も叩く。何も言わず、何度も。母親として。

盗賊トリスと馬車に乗るルーデウス
女盗賊トリスの力を借りて密入国。気合の入った作画のモブ…ではなく重要キャラ

 目的地はアスラ王国。ミリスへの侵入で指名手配犯となっているルーデウスは、密入国するしかない。盗賊ギルドの伝手を頼り、案内役となった女盗賊トリス。原作では「妖艶な女盗賊」と書かれる程度の人物だが、気合の入った作画から分かるようにモブではない。

 原作では密入国のために「ルード・ロヌマー」の偽名を名乗り石化する呪いの設定で仮面をかぶるが、アニメではカット。まあ泥沼は有名だし、余計な小ネタとしてバッサリいったのだろう。息抜きが無いです。

 ロキシーに続いて、ここでシルフィを失う。

 王都の片隅の処刑場に晒されたアリエルの手勢の中に、シルフィがいる。片腕がなく、顔に大きな斬り傷。石を投げる民衆。ルーデウスは火魔術で、シルフィに向って石を投げた民衆も何も、すべてを燃やす。

 原作では、ルーデウスはシルフィごとすべてを燃やす。火による浄化だ。ルーデウスの激情からすると、その方が自然かもしれない。ただ、映像としたときに、愛しているシルフィをいきなり燃やす光景を、その愛に釣り合うように描くのは困難だろう。

磔にされたシルフィを抱きかかえるルーデウス
シルフィを抱きかかえるルーデウス。遅いよ…

 原作の日記は、こういう空白を読者が想像で埋める構造になっている。読んでいるルーデウスの頭の中は時たま挿入される。自分で書いた文章のせいかその時どう感じたのかをまざまざと想像できてしまった、とする。

 アニメはその空白をひたすら映像で埋めていく。良くも悪くも、読者に委ねない。

 リーリャと口論になり、投げつけた瓶がかばったゼニスの額に当たって血が出る。それを見てルーシーが号泣し、妻と子が家から出ていく。

出ていく家族、振り返るのはアイシャだけ
出ていく家族たち。アイシャだけが後ろを振り返る

 原作の日記はこの一連を淡々と列挙する。「ノルンは口をきいてくれない」「リーリャに愛想をつかされる」。アニメはそこに、振り返るアイシャを一枚入れている。誰も振り返らない中で、一人だけ振り返るのだ。

荒れた部屋でナナホシと話すルーデウス
ナナホシと何やら議論

 ナナホシは、第12話で「失敗するんだ」「聞きたくない」という会話で流された末路が描かれる。召喚に失敗し、自ら命を絶ったのだろう。足が浮いた状態で天井からつり下がったナナホシを見上げるルーデウス。もう見たくない。

ヒトガミの種明かし

 ここでヒトガミが現れる。

 「最後に挨拶しておこうと思ってね」「もう君には用はない」。ルーデウスの前で、ヒトガミは隠すことをやめる。

 転移事件の時からずっと、信頼を得るというヒトガミの「祝福」が効かないルーデウスを信頼させるのに苦労したこと。最後には願いを聞いてくれるようになったこと。まあよくしゃべる。

 「おかげでロキシーを殺すことができたよ」。

 ここはアニメ版のオリジナルに近い。ヒトガミの憤怒ものの発言を音声として耳に叩き込んでくる。ブラウン管だったら割れてる。原作の日記は、ヒトガミの登場を「夢にヒトガミが出てきた。まだ肩にあいつの手の感触が残っている。憎い。」と一行書くだけ。直接の会話劇は無い。

 さらにヒトガミは「ロキシー、妊娠してたんだよね」「君がバカなおかげで、僕の思い通りにことが進んだよ」と言い放つ。原作では、ロキシーの妊娠は日記の「ロキシーも、ロキシーの子供も浮かばれない」という一文で間接的にしか示されない。直接口に出されることで、ヒトガミへの憎悪と、それに対抗できない無力感の解像度が上がる。

 「それは君の問題だろ?」「何でも僕のせいにしないでよ」。ヒトガミは責任を全部ルーデウスに返して消える。ルーデウスは拳を振り上げるが、何も当たらない。

 肩に残った感触、笑い声だけが残る。この感触が、以後五十年の打倒ヒトガミへの消えない燃料になる。

無職転生Ⅲ 第11話「ターニングポイント4」ネタバレ感想
無職転生Ⅲ第11話、いよいよ「ターニングポイント4」に到達だ。アトーフェとの戦闘を終え、一息つく間もなく物語がルーデウスの日記によって4回目の転換点を迎える。戦闘描写が少ないせいか、止め絵の美しさ、表情の細やかさで見せる神回となっている。ネタバレ回避のあらすじは以下。アトーフェラトーフェの追撃を振り…

そして誰もいなくなった

 ヒトガミを探す旅が始まる。長生きしている者ほど、ヒトガミを知っている確率が高い。不死魔族のアトーフェなら何か知っているはずだ。

 旅の途中で、ルーデウスはエリスと何度も会う。エリスは強く、ルーデウスは何度も負ける。このあたりの構造は原作の日記と同じだ。エリスはルーデウスを止めようとしていて、ルーデウスはエリスをヒトガミの手先だと決めつけて、戦う。

 原作の日記は、この誤解をルーデウス自身の言葉で自己分析する。「なんの確証もない話を、仮定だけで決めつけて。逆恨みの一種だろう」。この自己批判が入る。アニメの台詞にはここまで踏み込まない。

 シルフィの自動人形を作り、シルフィそっくりに仕立てて、それでも「これじゃない」と壊す。ザノバは怒らず、逆に謝る。原作では自動人形は兵器となり、量産されて国に売られる。

 強くなるために考えたのは、闘気を纏えない自分のための鎧だった。この魔導鎧を持つところから、原作ではルーデウスが本当に強くなり始める。アニメ版では今回はその完成が一瞬のカットで挟み込まれるだけだ。ザリフの義手を全身に纏う発想で、魔力の消費が大きすぎてルーデウスしか扱えない。それでも着れば、列強並みのパワーとスピードが出る。

 そして家に戻ると、焼けた跡。ザノバは扉の前で真っ黒に焼け焦げ、アイシャは奥で切り刻まれている。その脇にはミリスの紋章。

 悲劇は終わらない。ヒトガミについての情報を得ようと、アトーフェ戦に挑む。重力魔術でアトーフェを屈服させられようかというところで、ムーアの魔術にやられて形勢は逆転。アトーフェの一太刀で絶命するかと思いきや、間にエリスが飛び込む。

 ルーデウスをかばって落命するエリス。ギレーヌは静かに伝える。「お嬢様はお前のそばにいたかっただけだ」と。

過去転移と再会

 どん底まで落ちても、ルーデウスはヒトガミを探す旅を続ける。ついに彼は龍族の遺跡で一つの結論にたどり着く。

 この世界はもともと六つの世界でできていた。それがサイコロの面のように繋がっていて、その内側、無の世界と呼ばれる場所にヒトガミがいる。そこへ行くには龍族の秘術と五つの秘宝がいる。秘宝がこの世に現れるのは数十年先。おそらく自分はそこまで生きられない。

 ここは原作の日記の記述とほぼ同じだ。壁画の発見、無の世界の構造、「サイコロ状につながっていた」という比喩まで、書いてある通りの順番で出てくる。

 そして、過去に行こう、と決める。召喚魔術と龍族の壁画の魔術。この二つを手順を変えて使えば過去へと転移できるはずだ。

 ここで新ED曲の「一縷」が流れ始める。一縷の望み。曲の入りは、この決意と重なる。

ED曲が流れる中、壁画の魔法陣に手を伸ばす老ルーデウス
エンディングテーマ「一縷」が流れる中、過去転移に踏み切る老ルーデウス

 不安は多い。過去の俺は未来の俺の言葉を信じるだろうか。そもそも行けるかどうかわからない。

 だが、もし成功したなら。ヒトガミに一泡吹かせられるかもしれない。原作の日記は、この一文で幕を閉じる。

 アニメもここで一区切りつけてから、Cパートで前回の老ルーデウスのシーンに戻す。

 伝えきることはできただろうか。地下のこと、ナナホシのこと、エリスのこと、それからヒトガミのこと。必死で伝えようとする老ルーデウスに、「ごめん、もういいから、喋るなよ」と声をかけるルーデウス。

 同じ場面を、12話はルーデウス側から見せた。13話は老ルーデウス側から見せる。「もういいから」と止められる側の内側で、どれだけのことを伝え残そうとしていたか。台詞は同じでも、視点が反転すると意味が変わる。

目の前に現れたシルフィとロキシーを写す
シルフィとロキシーに会えたんだね…

 最期に残ったのは「せめてシルフィやロキシーに、もう一度だけでも」という願いだ。「相変わらずかわいいな…」と老ルーデウスの眼前には、シルフィとロキシーの姿だ。予見眼を使ってみたのだろうか。ルーデウスを探しに来た時の表情とは違うので、もっと未来の何かだろうか。もう終わる未来からすると、幻影だろうか。

無職転生Ⅲ 第12話「終わりと始まり」ネタバレ感想 灯
無職転生Ⅲ第12話「終わりと始まり」は、一つの人生の終わりと始まりを一夜で描き切る神回だ。未来から来たという老人は、これからルーデウスが失う最愛の妻たち、ロキシー、シルフィ、エリスの顛末を語り、その仇となるヒトガミには五十年かけてもたどり着けなかったと告げ、そのまま息を引き取る。未来の自分が「人生に…

次回は「覚悟」

 日記を読み終えたルーデウスが、次に何を選ぶのか。15巻は「日記 前編」「日記 後編」の次に「覚悟」が置かれる。三話で一つの山になる、打倒ヒトガミへの序章だ。

 14話にまだ[終]の文字は無い。

無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 15 (MFブックス)
無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 15 (MFブックス)
第一話「日記 前編」と第二話「日記 後編」が13話本編。次回「覚悟」も同巻
無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 14 (MFブックス)
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第十話「ターニングポイント四」と第十一話「終わりと始まり」が11話・12話。13話の前提

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