相棒21 元日スペシャル 第11話「大金塊」ネタバレ感想

相棒21は、初代相棒の亀山薫が戻ってきたシーズンだ。今さら亀山薫もないだろうに、と興がそがれていた矢先に、元日スペシャルが来た。あまり期待せずに観たところ、これがなかなか良かったので久しぶりに筆を執っている。

ネタバレ回避用のあらすじは以下。

怪盗が狙うのは大物政治家の20億の金塊
特命係と熟年探偵団の頭脳戦が始まる!

全国の美術館で窃盗が相次ぎ、広域重要指定になっていた事件が、窃盗団を一網打尽にしたことで解決された。しかし、解決に貢献したのが“捜査権のない民間の探偵社”ということで、警察上層部は怒り心頭。お灸を据える意味で、『熟年探偵団』を名乗る三人組を、建造物侵入の容疑で逮捕する。執行猶予付判決を受けたのは、大門寺(斉木しげる)、串田(佐藤B作)、野崎(井上肇)の熟年トリオ。ただ、趣味で探偵をし、いくつかの事件を解決に導いてきたという彼らに悪びれる様子はなかった。

そんな中、元与党政調会長で、政界に多大な影響力を持つ大物衆議院議員・袴田茂昭(片岡孝太郎)の屋敷に、『邸内の金塊を盗む』という不穏な予告状が届く。袴田といえば一年前、右京(水谷豊)に殺人教唆の罪を暴かれそうになるも、当時の秘書に罪をなすりつけることで逮捕起訴を免れた、曰く付きの人物。警察に介入されたくない袴田は、後継者として修行をさせている息子・茂斗(森崎ウィン)を通じて、『熟年探偵団』に捜査を依頼する。袴田としては、家格を重んじ、茂斗の将来に並々ならぬ執着を見せる妻・虹子(いしのようこ)の手前、トラブルを大きくしたくないという裏事情があった。

いっぽう、『熟年探偵団』に興味を持った右京と薫(寺脇康文)は、探偵事務所を訪問。するとそこには、茂斗の姿が。双方をマークすることにした右京と薫は、依頼を受けて袴田家を訪れていた探偵団に乗じて、邸内に入り込む。右京と因縁のある袴田は、姿を見るなり追い払おうとするが、探偵団と同行していた寧々(茅島みずき)という若い女性の機転で同席を許される。実は彼女こそが、探偵団のブレーンで、鋭い推理力と観察眼を持つ才媛だった。行き掛かり上、特命係と寧々率いる探偵団は、金塊盗難予告の捜査で競うことになる。

予告状を送りつけてきた犯人の狙いは?
右京と美少女探偵が火花を散らす中、
事件は過去の因果と権力者の思惑をはらみ
思ってもみない方向に転がっていく!

ゲスト:森崎ウィン 茅島みずき 佐藤B作 斉木しげる 井上肇 いしのようこ 片岡孝太郎

脚本:輿水泰弘
監督:権野元

https://www.tv-asahi.co.jp/aibou21/story/0011/

探偵小説は古びない

今回の元日スペシャルは、米花町もびっくりの死傷者ゼロである。政治家の屋敷地下に眠る時価20億円の金塊。その金塊を目当てに怪盗からの予告状が届く。杉下右京と因縁のある政治家は、警察ではなく私立探偵に警護を依頼。それでも金塊は見事に偽物とすり替えられ、忽然と消えた。

早くから狂言だろうなと予想させる脚本ながら、要所要所でその思惑の謎に興味を惹かれる。ホワイダニット(Why done it)な味付けが飽きさせない。

怪盗、という舞台装置が古びない、という脚本の構造が、かつて江戸川乱歩の探偵小説に胸を躍らせた世代に響く。しかもその小説は、時を経て作中の政治家の息子の世代、若者の心を掴み、狂言回しの道具として登場する。

探偵小説は既に古典なのだ、という主張に違和感を覚えなければ、今回の元日スペシャルは大いに楽しめたのではないか。事実、私はそうだった。小学校の図書室にあった、江戸川乱歩の全集が目に浮かぶ。

亀山薫は動かない

時価20億円の金塊は、かつて袴田議員が受け取った賄賂の成れの果てだった。当時の価値は2億強。袴田は清廉を理想としていたものの、この収賄を起点に政界での影響を増していく。

時価の上昇とともに、疎ましさもまた募ったのではないか、と袴田の心中を察する場面がある。その袴田の焦燥感を心配する息子は、金塊を消し去り、父親の罪悪感を少しでも軽くしようと、狂言を思いついた。

ラストシーン。犯人とその動機を特命係の二人に指摘される袴田は、息子をかばいあくまで白を切る。何か言いたげの息子を制し、自分の政界引退を取引材料に、右京に対して幕引きを迫る袴田。右京は「首を洗って待っていろ」と言い放ち、その場を去る。

去り際に、亀山は袴田の息子にこう声をかける。

汚れなきゃ出世できないのが政界の現実かもしれないけど、

理想で、現実に立ち向かってくれ。
お父さんの果たせなかった夢を、君が引き継げばいい。

実に使い古された、この言葉。だからこそ、亀山だけが言える名セリフとなる。サルウィンで舐めたであろう艱難辛苦をもってしても変わらない信念がじんわりと伝わってくる。

こんなセリフ、普通は浮ついて聞けたものではないだろうに。相棒の脚本家陣が時代性を読み切って生み出した舞台を、寺脇康文が演じきった。そんな印象を受けた。

杉下右京は止まらない

覚悟を決めた袴田は、亀山の言葉に感銘を受けたのか、警視庁に亀山の現職復帰を働きかける。他の警察本部が退職後15年は復帰できるところ、警視庁は10年がタイムリミットなのだそうだ。その差を是正しろ、と理論武装する運びが袴田のしたたかさを補強してみせる。

ただ相棒の脚本は、袴田は清廉潔白になろうとしているのだ、という綺麗ごとでは終わらせない。

袴田は過去の事件の証拠となる録音を、内調に消去されていた。この録音は、当然内調の政界工作への道具としてどこかにある。その録音を右京に渡したのは、内調に異動していた青木だった。

録音を自ら差し出すか、罪を認めて自首する脚本にすれば、親子の情が事件を解決するという綺麗ごとが成立するところ、そうはしていない。あくまで右京の執念がラストの袴田逮捕を導くという運びになっている。

亀山の正式復帰とともに、青木も帰ってくるのだろうか。青木が右京を恨んでいる伏線はまだ生きているのか曖昧になりつつある。

息子もまた右京の前に立ちはだかるのだろうか。清廉な敵、というひねった脚本を見てみたい。

伏線のリドルストーリー

金塊を持ち去るだけでなく、金メッキの偽物をわざわざ置いていった犯人=息子は、手練手管でのし上がった初代をブロンズで、清廉を是として花開かなかった二代目を純金のブロンズメッキで、それぞれの胸像を飾った。

劇中、何も知らずにブロンズ像を見た袴田は、いずれ自分のも頼む、と息子に告げる。袴田の逮捕を前に、息子は果たしてどちらの胸像を作るのか。

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