無職転生の第17話「再会」は、ノルンの視点を盛り込んだ神オープニングで始まり、パウロとルディの再生で締めた神エンディングで終わるという、要するに神回だった。無職転生のテーマを原作より明確化したファインプレーに拍手。
ネタバレ回避のあらすじは以下。
父・パウロと再会を果たしたものの、ゼニス、リーシャ、アイシャ、シルフィが転移事件で行方不明になったこと、そしてパウロとの衝突で傷心するルーデウス。 一方のパウロはギースに諭され、ルーデウスにぶつけた言葉など己の過ちに気づき、もう一度息子と会って話をしようとする。 勇気を振り絞りパウロと対峙するルーデウスだが……
https://mushokutensei.jp/story/17/
また原作を超えてきた神オープニング
アバンは話をややさかのぼり、転移災害時のパウロとノルンから。青い光に包まれた直後からだ。
気が付けば見渡す限りの草原で、周りには誰もいない。ゼニスもリーリャもアイシャも。腕の中のノルンは「お父さん…?」と不安げ。パウロは「大丈夫だ、家に帰ろう」と声をやや震わせながら移動を始める。
毎度の特殊オープニングは、ノルンを抱えながら、馬を駆り、雨をしのぎ、道を急ぐパウロの奮闘を描く。苦労の末にフィットア領に着くと、すべてが消失し、難民キャンプのようなものが成立している。そこから捜索団の結成、被災者の救出、喜び、悲しみ、そして慰めるノルンと、どんどんすさむパウロ。
いきなりの神オープニングに正直驚いた。今回の「再会」はパウロとルディの和解がクライマックスではあるが、このオープニングこそ頂点だ。
このオープニングで、パウロがなぜルディに辛くあたったのか、パウロを殴ったルディをなぜノルンが毛嫌いしたか、すべてが腹落ちするようにできている。なぜなら原作には無かったノルンの視点がしっかり描かれているからだ。
すさんでいくパウロを心配するノルン。時折見せる笑顔にホッとするノルン。励ますために花でリースを作るノルン。ノルンの辛さを描いたことで、酒浸りの中でノルンにだけは優しい表情を見せるパウロの辛さもまた際立った。このわずか2分ほどのアニメは確実に原作を超えている。
パウロの転移先は? ヴェラとシェラの格好の秘密は?
原作を知らないと背景を見過ごしがちなのは、パウロが馬を得た方法と、ビキニアーマーのヴェラとローブのシェラの姉妹が映ったシーンの意味だろう。
転移先は幸いアスラ王国南部で、知らない土地ではなかった。パウロは冒険者時代から剣の鞘にアスラ金貨1枚を仕込んでいる。それを元手にフィットア領まで戻った。馬は冒険者ギルドの配達依頼クエストで貸与されたのを借りパクである。
ヴェラとシェラのシーン。毛布でくるまれた姿は、盗賊に慰み者にされた後だ。
妹のシェラは男性恐怖症になり、姉のヴェラはシェラを男性の視線から守るためにビキニアーマーを着用するようになった。
魔大陸の過酷さを語るギースとの再会
Aパートはパウロがいる酒場に顔を見せるギースから。明日ギルドに顔を出せ、とルディにかけたのと同じ声をパウロにかける。
既にルディと会い、殴られた後のパウロ。ルディに対する愚痴をギースに話すも、ギースは「ルーデウスはまだ11歳だ」とさとす。お前は11歳で魔大陸を縦断できたか?とパウロに問うギース。ルディは天才だから期待して当然というパウロ。
ギースは、中央大陸出身の甘ちゃんには分からない、と魔大陸の過酷さをパウロに語る。
・町の外は荒野
・昼は酷暑で夜は極寒
・魔物を倒さないと薪が無い(トゥレントを倒すと乾燥した薪になる)
・飲料水は無く、雨も降らない
・強い魔物がうようよ(Cランク以上、中央大陸ではめったに出ない)
そこに、初めての土地で、守るべき存在(エリス)を抱え、普通は恐れるべきスペルド族が一緒となれば、家族の探索にまで手が回るはずがない、とギースはとうとうと話す。しかしギースの作画は揺れているな。印象が回ごとにガラッと変わる。
家に帰り、ベッドで眠るノルンの髪を撫でていると、ルディがまだ子供だという思いに至る幻覚を見る。生まれたばかりのノルンを可愛がるルディ、魔大陸で手足を失うルディ。そんな幻影に、外に出て水をかぶるパウロ。水面に映る自分の顔を見て、こりゃダメかもしれねぇな、と独り言つ。
パウロとの二度目の再会
Bパートはデッドエンドの朝食シーンから。無精ひげを剃った素面のパウロがやってくる。早速エリスが喧嘩を売り、パウロはルディに「女の後ろなんかに隠れやがって」と軽口を叩く。そのパウロらしい態度に、ルディは口元をほころばせる。
キレるエリスを連れ出すルイジェルド。ようやくパウロとルディ、二人の落ち着いた会話が始まる。
謝りたいというパウロに、むしろ遊び気分で謝るのは自分だと返すルディ。パウロは改めて「大変だったろう」とルディを気遣うも、ルディはパウロに「余裕でした」と返してしまう。会話はぎこちなく、かみ合わない。アニメ版ならではというか、気まずさをきっちり無言の時間で演出してくる。
エリスをフィットア領に送る、というルディに、何もないぞ、とパウロ。それでもルディは帰り、その後にゼニスやリーシャを探すらしい。
ここまでルディはずっと目をふせたままだ。酒場のおやじは「顔くらい見てやれよ」と声をかける。顔を上げて見たパウロの表情に、かつての前世の記憶が重なる。
ここで杉田ボイスのルディの回想シーンに。引きこもり時代の初期、遊びに来てくれた友達が「俺も引きこもりたいな」と軽口を叩く。のしかかってキレる前世のルディ。励ましてくれていたことに気づき、また来てくれたら謝ろうと思ったものの、もう二度と訪れることはなかった。自分から行くこともなかった。相手を責めることばかり考えていた自分よりは、30歳そこそこのパウロはよくやった、と思い直す。
しかしパウロは、頭を下げに会いに来た。来てくれた。ルディは「僕らは大人にならなきゃいけません」と切り出し、親子の再会をやり直そう、と提案する。パウロをひざまずかせ、その胸に飛び込むルディ。ようやく涙の再会となる。
ここはアニメ版だけでなく原作からしてそうなのだが、完全に思考とセリフ運びが前世のままなのでやや違和感がある。ただこの違和感は、5歳で無詠唱魔術を習得したルディに対してパウロが抱いた違和感の延長なので、これはパウロにとってのルディらしさでもある。それでも親子の再会は成立する、というのが真骨頂で、ヘンに型にはまらない無職転生の良いところだ。
パウロの同席で名シーンになった作戦会議
エリスが帰ってくると、青タンを作ったひどい顔。ルイジェルドがエリスを止めるにはそのくらい必要だったようだ。
エリスにヒーリングをかけ、デッドエンドの作戦会議が始まる。旅費と紹介状をパウロが用意してくれたので金を稼ぐ必要はなく、計画変更だと説明するルディ。
ここでルディは、エリスにフィリップやサウロス、ギレーヌの行方が分からないことを打ち明ける。エリスは「それぐらい覚悟していたわ!」と言い放つ。
出発は明日と説明するルディに、エリスは即同意。ルイジェルドは二度と会えないかもしれんぞ、再考を促すが、「今探さなければ二度と会えない家族がいるので、そちらを優先したいと思います」と返すルディだった。軽くルディと視線を交わしたパウロは感謝の表情を浮かべる。
このシーン、実は原作ではパウロは立ち会っていない。出発するのも1週間ほど後の予定だ。セリフ自体はそれほど変わっていないが、ルディがゼニスやリーリャを探すために一刻も早く旅立とうとし、それを寂しくも頼もしく思うパウロ、というシーンに生まれ変わっている。冒頭の神オープニングと並ぶアニメ版のファインプレーだ。
旅を急ぐルディとギースによるパウロの覚醒
早速出立の場面。ノルンはパウロをぼこぼこにしたルディを嫌ってしまっているので、挨拶を拒否。
特殊エンディングになだれ込み、ギースが再登場する。ベガリット大陸は探せていないんだろ、とパウロに声をかけ旅立っていくギース。その様子に、自分だけが何をやっているんだ、とばかりに表情を引き締めるパウロだ。
やおら「ヴェラ!、シェラ!、打ち合わせの準備をしてくれ」と精気を取り戻すパウロ。その姿が見えているかいないのか、そっと振り返るルディのカット、生まれ変わったパウロのカットで今回は終わりだ。
ここもね。渾身の作画ですよ。なぜ渾身って、伏線だからでしょ。原作組じゃないと湧いてこない感情かもしれないけど、ちょっと泣いた。気が付けばオープニングとエンディングの両方で泣いてる今回。別に泣いたから神回というわけでもなくて、構造の力があるからだと言いたい。
ノルンも最後にパウロの再生によって救われているわけ。ルディとの和解は大分先とはいえ、父親を元気にさせた兄、という構図が和解への準備シーンとして機能している。ノルンは原作だと割と突き放されたような書きぶりを感じる場面が少なくないのだが、アニメ版では温かい視線で描き切るのかもしれない。
次回は「それぞれの旅」
次回のタイトルは「それぞれの旅」。正直、何を持ってくるのか分からない。ロキシーやシルフィのインターミッションをこなすのか、一気に中央大陸に向かうのか。原作ではスペルド族の渡航問題をルイジェルドが神殿騎士団から得た手紙をきっかけに切り抜ける、というシーケンスがあるのだが、アニメ版では「パウロからの紹介状」という新要素があるのでバッサリとカットする気配がある。
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