最近、古代祐三氏がPC-8801FEで再生したYs(イース)の音源を公開している。自分が最初に買ったPCもPC-8801FEだったので、当時の記憶が一気に戻ってきた。話題になっているのは「意外と音が良い」という点だ。
この音が良い、というのは内蔵音源であるOPN(YM2203)の話だ。そのポテンシャルを自分は外部スピーカーで楽しんでいたのだが、内蔵スピーカーの音も捨てたものではなかった。考えてみると、FEの“音の良さ”は音源チップの性能だけではなく、内蔵スピーカーと筐体(箱)が作る響きまで含めた体験だった。
OPN(YM2203)を“鳴らし切る”
当時、内蔵スピーカーは当然おまけのようなもので、外部スピーカーで鳴らすのが普通だった。ディスプレイ脇に“象の耳”のようにぶら下がるスピーカーは、マルチメディアPCを象徴する絵面でもあった。
そんな自分でも、FEの音に驚いたことがある。
当然のようにベーマガ読者だった自分は、N88-BASIC標準のサウンドプログラムから、音ズレの無いサウンドドライバを使ったMMLによるDTMにハマっていた。MIDIを楽しむには価格的なハードルが高かった層である。
FM3音+PSG3音+ノイズが使えるOPN(YM2203)を搭載し、サウンドドライバのPMDやFMPを使えば気合でゲーム音楽をほぼ再現できた。ベーマガ別冊等で音色データはあった。あとはパラーメーターとの格闘である。
FM1音は、4つのオペレータで変調をかけられる。並列に使ったり直列に使ったりできるのだが、2オペレーターでストリングスの音色を作り、これを2音として使うこともできた。サウンドボード2というYM2608チップを積んだ音源ではOPN×2+ADPCMが使えたが、MIDIと同じで搭載機または増設ボードの価格は高めである。特にFEはFEの専用スロット用が必要だったから、なかなか手が出なかった。
FM1音の中で「奥行き」を作る
で、至高のゲーム音楽であるイースは、OPNが音源である。1音なのにリバーブやエコーがかかっているなど、どうやってるのこれ?という状態だった。今ならエミュレータ等で丸見えだし、当時でもハードウエアレベルのデバッガを使えばコピーできたと思う。だが譜面も音色も耳コピでどこまで迫れるかが醍醐味の一つだった。
炭鉱の音楽である「BEAT OF THE TERROR」とか、エンディング1の「THE MORNING GROW」とかのベースがわかりやすいが、ベースの響きが非常に豊かだ。これを再現するのは骨だった。
試行錯誤して満足のいく音ができたのだが、要はアタックの後にエコーがかかるようにパラメーターをいじるのが鍵だったと記憶している。FEから、1音しか使っていないのにエコーのかかったベースが出てきたときは、心底驚いた。当時のプログラムは、後にEPSON互換機時代のHDD誤領域開放によって失われてしまったので思い出補正の検証ができないのが悔やまれる。
音というのは、耳に届き鼓膜を震わせる次点ですべてが混じっている。楽器や声という音源があり、届くまでに反響したり吸われたりして、耳には様々な状態で到達する。エフェクターという別の要素を使わない前提であれば、これをFM音源のオペレーターとそのパラメーターを駆使して人工的に作り上げるわけだ。
原音を聞いても、かつてFEで聞いていたような響きはない。もちろん、それなりに1音で深みがあるようになってはいる。しかし、FEの内蔵スピーカーがFEという巨大な鉄の箱をバッフルとして響かせていた音に比べると、ベースの強烈な立ち上がりとやんわり残るエコーに欠ける。
オーディオに詳しい人なら理解できると思う。そう、FEの音の良さ、というのは、バックロードホーンのそれに近い。様々な部品が詰まったパソコンの中を通り抜け、おそらく背面の開口部から出る音も相まって「良い音」になる瞬間があった。
ゲーム音楽として、当時の実機で出る音をいかに良くするか。これに血道を上げていた時代があった。外部スピーカーを付けるのは珍しいことではないが、OPNのように少ない音数で豊かなサウンドを作っていた当時、意外と実機の方が「音が良い」時代もあったということだろう。



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