無職転生Ⅲの第4話「水王級魔術師」は、ルーデウスがロキシーから水王級魔術「雷光(ライトニング)」を習得する回。タイトルこそこうだが、本題は魔術ではない。もう誰も失いたくない、という本気が生むカタルシスに向けて、ルーデウスが家族を守ろうとする動機の強さを観ている側にきっちりと刻み込んでいく回だ。
ネタバレ回避のあらすじは以下。
ルーデウスはザノバとクリフの協力で新たな左手となる「ザリフの義手」を手に入れた。しかし、いつかまた迫るかもしれない家族への危険。「もう誰も失いたくない」という想いのもと研究を進めるルーデウスは、ついにロキシーへ水王級魔術を教えてほしいと頼み込む。
https://mushokutensei.jp/story/3-04/
パウロの死と清算のアバン
4話のアバンは、パウロの墓前から。ギースとタルハンドがシャリーアを発つ挨拶に来ている。「まさかお前がくたばるなんてなぁ」「息子をかばって死んだんじゃ、本望じゃろうよ」と、墓石の前で軽口を叩き合う二人。ヴェラとシェラはとっくに発ったという。奴への義理立てとしては長すぎたくらいだ、と言いながら、それでもこの土地に残っていた理由が「先輩の家も落ち着いたようだし」なのだから、この二人も大概である。

墓前での酒盛りは、アニメ版ならではの演出だ。原作だと12巻の最終話「墓標の前で」に、「この場所のことはギースたちにも伝えてある」「ギースやタルハンドは墓の前で盛大に酒盛りをして、墓守に怒られていた」という地の文が数行あるだけ。その数行を一場面に立ち上げ、旅立ちの挨拶と別れのシーンにしている。
転移の迷宮の財宝の分け前を「パウロの分も入ってる」と渡す場面は原作にはない。パウロの死を清算する場を、原作より一つ多く用意したわけだ。

ついでに、エリナリーゼの「私の式には参加してくださらないのね」という振りに、タルハンドが「淫乱エルフの式なんぞ」と返すのも驚いた。タルハンドが淫乱ババァよばわりする場面を少しマイルドにしつつ、次回の「結婚式」につなげている。
オープニングは、ギースとタルハンドを見送り、エリナリーゼとロキシーと別れ、自宅へと帰るルーデウスを映す特殊OP。4話から曲が「芽吹の唄」に変わった。このとき、分け前の一つである吸魔石、ルーデウスが苦戦したヒュドラの鱗を光にかざす場面もある。
アイシャの機転、1話ぶり無限回目
Aパートは休日の朝から。シルフィとロキシー、妻二人は仕事に出かけ、自分は家にいる。「妻が働いて夫が無職ってのはどうなんだろう」という独白は原作の内心そのままで、無職転生、異世界行って本気だしたら無色、という軽いタイトル回収である。
庭ではアイシャがゼニスと庭いじりをしている。記憶の戻らないゼニスだが、こればかりはアイシャより上手いのだという。ここでアイシャがゼニスを「ゼニス様」と呼ぶことにルーデウスが引っかかり、お母さんって呼んでもいいんだぜ、と言うくだりも原作通り。リーリャの言いつけの徹底ぶりと、それでも一緒に庭に出ている二人の距離が、言葉と裏腹なのがいい。

ルーシーをあやすルーデウスにリーリャが言う。「旦那様もよくそうやってルーデウス様を笑わせようと苦心しておられました」。パウロを知る人間が家にいることの豊かさだ。つながりがある限り、人はそう簡単に消えない。
そしてアイシャの部屋で物音がする。様子を見に行った先で見つかるのが、動く植物ことトゥレントだ。この世界の魔物の代表格で、某RPGのスライムのような存在である。しかも最初は動かなかったのに途中から動き出したという。危険だから焼くと言うルーデウスに、アイシャが繰り出す一手が実に見事だった。

「あのこと、シルフィ姉とロキシー姉に言うから」。地下室の隠し部屋、つまり3話ラストで拝んでいたあの祭壇である。しかも「特にロキシー姉はずっと昔のパンツをあんな風に飾られてどう思うかな」と、的確に一番痛いところを突いてくる。
が、ここで当のロキシーが忘れ物を取りに帰ってくる。万事休すかと思いきや、ロキシーの答えは「いいのではないですか?」と軽い。ミグルド族は畑の害鳥除けにトゥレントを飼育しているのだという。ペットとして、トゥレントのビートが参加である。

続いてクリフとの吸魔石の研究。ヒュドラの鱗の正体で、魔力で生成されたものを瞬時に分解する、あの厄介な代物である。「今日はこれくらいにしておくか」と切り上げようとするクリフに、「もう少しだけ続けませんか」と食い下がるルーデウス。またいつか家族に危険が迫るかもしれない、その時のために今できることをやっておきたい、もう誰も失いたくないから。次の戦いへの不安要素を一つずつ潰しておこうというこの姿勢こそ、異世界行ったら本気だす、の本気の中身である。
ザノバとジュリも合流し、自動人形の中心部から見つかった魔石の話へ。表面に魔法陣が刻まれた小さな魔石の組み合わせだった、という大発見だ。ジュリの人形を褒め、「焦ることはない、目の前のことをコツコツ一つずつやっていけばいいんだ」と声をかけるルーデウス。自分に言い聞かせている台詞でもある。そして「そろそろ次のステップに進む頃かもしれない」でAパートは終了だ。
水王級魔術『ライトニング』
Bパート開幕、ロキシーに「一回だけ、一回だけでいいんです」と食い下がるルーデウス。当然のように生徒会へ通報が入り、ルークとフィッツが出動してくる。「ルーデウスが女生徒を襲っていると通報が来たんだが」と現場を確認するや、「フィッツ、あとは任せる」「解散解散だ」で撤収するルーク。判断が早い。

残されたシルフィーが妙にご機嫌斜めで、「いくら結婚したからって無理は良くないよ」「そりゃロキシーの方が上手かもしれないけどさ、僕だっているんだから」と言い出す。嫉妬してくれていることに感激したルーデウスが「二人で一緒にロキシーに教えてもらおう」と盛り上がり、シルフィーが「えっと、ごめんルディ。何の話だっけ?」と我に返る。ここまで全部、水王級魔術の指南の話である。原作の下ネタ誤読ギャグを、ほぼそのままの段取りで映像化してきたのだが、くどいかもしれない。
そして馬の松風に三人乗りで郊外へ。道中で話題に上るのがパウロの馬カラヴァッジョで、五歳の卒業試験で水聖級を覚えたときも同じように馬で郊外に出た、とロキシーとの十二年前につながる。「ここら辺の雰囲気、ちょっとブエナ村に似てるな」というルーデウスの一言で、さらにシルフィーとの原点にも触れる。師匠と弟子、幼馴染。原作でも同じ回想が置かれているが、三人が一頭の馬に揺られながらというアニメの画のほうが、遠回りしてきた十二年を想わせてよい。

[画像: 15:47 松風に三人乗り|キャプション: 我が家で最も放置気味なペット、ようやくの出番]
訓練に使えそうな大木を前に、ロキシーのライトニングの詠唱が始まる。「雄大なる水の精霊にして、天に上がりし雷帝の王子よ」——ここでルーデウスが気づく。おや、これは豪雷積層雲(キュムロニンバス)じゃないか、と。
原作では内心のツッコミなのだが、アニメは台詞にした。おかげで、視聴者にも位階の仕掛けが同時に伝わる。水聖級の詠唱を完成させず、暴れる魔力を安定させないまま次の詠唱を積み重ね、雲を一点に圧縮して落とす。それが王級だ。魔術の位階という概念を、実演と解説だけで飲み込ませてしまう巧い脚本である。

杖を使って一度が限界というロキシーに対し、ルーデウスは一発で成功させてしまう。「私でも5回に1回は失敗しますから」とシルフィーを慰めるロキシー。
夕日の帰り道。ロキシーが漏らすのは、最近自分が夢を見ているんじゃないかと思う時がある、私は今でもあの迷宮の中にいて死ぬ間際に幸せな夢を見ているだけなんじゃないか、という述懐だ。半年で結婚もできて教師にもなれた。幸せすぎて現実感がない。転移の迷宮で本当に死んでいてもおかしくなかった人の言葉である。


これに対してシルフィーは「僕の場合は運が良かったんだ」と返す。原作ではここでシルフィの半生——アスラ王宮の上空に転移して髪が白くなったこと、アリエルの護衛として暗殺者を返り討ちにしてきたこと——がまるごと語られるのだが、アニメは「ルディがすごく困ってる時に再会できて助けることができたから」の一文に圧縮した。すでに2期で描いた過去だから、というのもあるだろう。

そして締めの独白、「運がいいのは俺だ」。ロキシーに連れ出してもらったから外に出られた、シルフィーが許してくれたからこそ今の幸せがある。そんな自分が大切にすると口にしたところで上辺だけにしか聞こえないだろう、だから行動で示していこう、彼女たち家族を守るために。ルーデウスの決意を、今シーズンのラストに向けてこちらに刻み付けていく。タイトルこそ水王級魔術だが、守ると決める回だったわけだ。
次回は「お祝い」
次回はエリナリーゼとクリフの結婚式、原作13巻の第七話にあたる。アバンでタルハンドが欠席を宣言していたあの式だ。13巻はここから結婚式、誕生会、卒業式とお祝い事が続いていく。
なお、第三話「トレーニング・ウィズ・ノルン」は今回も飛ばされたままである。ノルンのファンクラブが結成される話なので、どこかでやってほしいのだが。
ところで、3期のもう一人の主役であるエリスは1話・2話で仕上がったきり、しばらく出てこないはずだ。予想するなら、出番は最終話の一つ前のラスト。「待たせたわね、ルーデウス!」でクリフハンガー、最終話でオルステッド・コーポレーション入り、といったところだろう。忘れるくらいがちょうどいいかもね。

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