我々は今、地球システムのなかに新たな構成要素として、人間圏を作って生きている。そんな我々の一年を地球時間に換算すれば、1万~10万年に相当する。では、そんな時空スケールで日本列島の人間圏を考えたら、我々は何処へ行くのか?それが本書のテーマだ。『日本沈没』以来久々の、日本の作家にしか書けないクライシスノベルの登場。第26回メフィスト賞受賞作。
冒頭で心の準備ができる間もなく破局的噴火。九州南部の火山活動で数百万人が死亡する。効果的な対策は存在せず,いかにして恐慌を防ぎ,復興を成すかに勝負をかける政府を描いた作品。
以下,ネタバレ
衛星徹甲弾なるものが日本の秘密兵器として登場する。この兵器の目的は,自国民が流浪を迫られたとき,他の国も同様の危機に陥らせること。複数国で難民が発生したとして,日本人は排斥するが英国人は受け入れる,という行為が国際的に許されることはないだろう,という訳だ。当初の案では噴火の時期をコントロールして被害を最小限に防ぐための兵器だったようだが,作中で「さすがにありえん」ということになり計画変更を余儀なくされている。
で,この超兵器,結局使われずに終わる。衛星軌道からの質量攻撃なんてした日には,原発をピンポイントで破壊するだけでは済まないだろう。それにどこかの国の監視網に引っかかることは必至。SFの境界線を越えるかのように見せ,使うぞ使うぞと思わせておいて結局使わないところが心憎い。
ここから先は「トップをねらえ」とリメイク版「日本沈没」のネタバレ。
超兵器で破局を回避するというのはSF好きならたまらないシーンの一つだろう。「トップをねらえ」というアニメをご存じだろうか。このアニメ,多くの人にとってビミョーな内容なのだが,最終話になると一気にシリアスになる。なにせ数kmという体長が当たり前の宇宙怪獣を一網打尽にすべく,「ブラックホール爆弾」を銀河中心で起爆するべく宇宙艦隊が出発する。
ブラックホール爆弾は,ブラックホール化する寸前の質量になっていて,ハリネズミのハリのような棒を起爆時に挿入すると臨界を超えブラックホールになるという代物である。当然,ブラックホールに吸い込まれてはたまらない宇宙怪獣はこれを妨害。起爆装置が働かずブラックホールになれるだけの質量を確保できなくなってしまう。そこで主人公の乗るロボットが持つ縮退炉を起爆装置として押し込んで起爆,急速にブラックホール化する場から全速で離脱する。
結果,宇宙怪獣を殲滅。主人公は全速で離脱する。亜光速で地球を目指す主人公。辿り着いたのははるか未来の地球だった。夜の部分から接近したにも関わらず,一つとして見えない灯火。人類は滅亡したのかと失意にくれる主人公だったが,暗闇の地球の一角に街の灯火による文字が浮かび上がる。「ヲカエリナサイ」と。
日本沈没の方は,日本列島を引きずり込むプレートをN2爆弾で破壊。日本は沈没しない。えー。この時,なぜか起爆は主人公が手動でやる。潜水艇が壊れ,日本が沈没せずに済むタイムリミットに間に合うかどうか微妙な状況。そんな中,「奇跡は起きます。起こして見せます」と言うのだがこの台詞,トップをねらえ作中でも使っているのだ。樋口真嗣監督はトップをねらえの制作スタッフの一人という背景があるにせよ,「ああ,それがやりたかったのか,オリジナルを超えるにはそうするしかなかったのか」と落胆した。しかも主人公は死亡。アルマゲドン以下になってしまった。
死都日本。また樋口監督で映画になったりしないだろうな。小説版日本沈没のラストは難民となった日本人の末路を余韻に終わり,死都日本は災害対応型の国家再生という暗い理想を明るく語って終わる。このラスト,映画向きにするにはどうしましょう?
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