無職転生の第22話「現実(ユメ)」は、エリスの物語だった。ルディと結ばれるくだり、アニメ版のエリスはどうしようもなく愛しく美しい。その描写に成功するとは。期待はしていたが、まさかやってのけるとは。
ネタバレ回避のあらすじは以下。
ついにフィットア領へと戻ってきたルーデウスたち。 しかし、故郷のブエナ村は荒地になり、ボレアス家のあったロアの街も転移事件に巻き込まれた人たちが集まる難民キャンプとなっていた。 執事のアルフォンス、そしてギレーヌと再会し、フィットア領やボレアス家の現状を知ったエリスは、ひとり考えた末にルーデウスの元を訪れる。
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さよならエリス・グレイラット
アバンは在りし日のロアの町。ボレアスの屋敷だ。倒れたワインのデキャンター。床に滴るワイン。血を連想させるそれをフラッシュバックしつつ、サウロスやフィリップ、ヒルダ、リーリャ、ゼニスといった面々が何かを話している幻を見る。
エリスだけでなくロキシーやシルフィも一緒にいる。ありえなかった現実だ。
視界がワインで閉ざされ、ふと我に返ると前世の男の姿で自宅から外を見る。そこにはまたボレアスの屋敷の面々が。龍神オルステッドにまた胸を貫かれたところで、うなされながら目を覚ますルディだった。
飛び起きたるルディを心配するルイジェルド。エリスは横で眠っている。雑談が始まり、「ヒトガミ」とは何だ?と聞くルイジェルドに、ルディは龍神とヒトガミの因縁を話す。
スペルド族の呪いは努力次第で取り除ける、というヒトガミの言葉を告げると、感極まって震えるルイジェルドである。
オープニングは、第1期の「旅人の唄」…かと思ったらその変奏である「旅人の唄~帰郷~」で始まった。馬上で乱魔(ディスタブ・マジック)の練習に余念がないルディである。
エリスが何でそんなことしてるの?と問うと、オルステッドから逃げ切れるくらいにはなっておきたい、と答えるルディ。その背中に、そっと身体を預けるエリス。
相変わらず情報量が多い。エリスはルディに負い目、引け目を抱いているのだ。オルステッド戦で何もできなかった自分への評価は低い。
もう一つ目を引いたのは、転移の起こり方だ。馬の顔をしばらく写し、その背後にある麦っぽい草原がいきなり荒野になる。その壮絶さをさりげなく伝えてくる。
ブエナ村、ルイジェルドとの別れ
オープニングが明けると、ほぼ何もないブエナ村。自宅はかろうじて壁や門の一部が残っている。シルフィやゼニスを思い出すルディ。テーブルの上にはなぜか燭台がある。
荒涼としたブエナ村を前に、言葉を失う三人。しばらくの沈黙の後に、ルイジェルドは「もう、お守りは必要ないな」と告げる。
スペルド族に対する風当たりが変化していったことへの感謝をルディに伝えるルイジェルド。魔大陸で、ドルディア村で、シーローン王国で。ヒトガミのおかげだというルディに、ルイジェルドは会ったこともない神ではなくルーデウスが一歩をくれた、救ってくれた、と断言する。
エリスには、俺より強くなる才能がある、と言葉をかける。神の名を冠した男の技を受けた、その意味は分かるか、という問いに、分かったわ、と答えるエリス。
原作では、ハッと目を見開いて「わかるわ」だ。これはエリスの剣士としての天才を示すものだが、アニメ版では弱められている。アニメ版ではエリスは自分の至らなさを常に自覚している描写を強調することで、今回の最後の行動に説得力を持たせている。
最後に、子供扱いをするがいいか?と聞き、頭を撫でるルイジェルド。エリスは口をへの字にして静かに泣く。
「大切なものだろう」とルイジェルドは、ルディがルイジェルドに渡したミグルド族のお守り、ロキシーからのプレゼント――を返そうとする。ルディは、大切なものだからこそ持っていてほしい、と返す。
最後、静かに「また会おう」と一言残して去っていく。そのルイジェルドの後ろ姿に、深々と礼をするルディだった。
フィットア領、難民キャンプへ
CM明けはフィットア領の難民キャンプから。ギレーヌの姿を見つけ、飛びつくエリス。
執事のアルフォンスは、ルーデウス様は外でお待ちください、と一線を引く。エリスは毅然として「だめよ。ルーデウスも一緒」と言い切る。
アルフォンスは、エリスからの「誰が死んだの?」との問いに、フィリップとヒルダは紛争地帯に転移して死に、ギレーヌがそれを確認済みだという。サウロスは14話のラストで観たように、処刑されている。
話はエリスの輿入れの話に。ボレアス当主のピレモン・ノトス・グレイラットが妾として迎えるらしい。ボレアス家のため、と言うアルフォンスに激高するギレーヌ。エリスに「逃げて幸せになれ」と迫る。
二人の口論を「うるさいっ!」と一喝するエリス。一人にさせて、と押し黙る。ルディが話しかけるも、聞こえなかったの?とにべもない。やむなく立ち去るルディの背後からは、エリスのすすり泣く声だけが聞こえてくる。
外に出て、ギレーヌと一緒に難民キャンプの行方不明者のリストを見るルディ。シルフィの名を見て取り乱すも、死亡者リストには載っておらず、ひとまず安堵する。
エリスの物語
夜更け。眠れないルディのテントに入ってくるエリス。
ルディが妾の話を振ると、どうでもいいわ、と投げやりなエリス。15歳になったの、と誕生日を迎えていたことをルディに伝える。全然気が付かなかったと驚くルディは、何か欲しいものは?とエリスに聞く。エリスの答えは「家族」だ。
私の家族になりなさい、と言うエリス。一緒に寝なさい、と命令口調で言い始める。ルディが10歳の誕生日に「15歳になったら…」と約束していた話になるも、ルディはまだ15歳ではない。自暴自棄になっているかもしれない、と悩むルディ。弱みにつけこんでるみたいじゃないか、とあくまで冷静だ。エリスを大事に思うからこその葛藤である。
思い余ってルディにのしかかり迫るエリスに、あくまで約束は約束だと押しとどめるルディ。切り札としてエリスは、お母様に習った言葉として「ルーデウスの子猫が欲しいニャン」と耳元でささやく。
そして愛し合う二人。アニメ的には回想シーンである。家庭教師として会い、ダンスを踊り、粗暴だった女の子が少女になるまで。丹念に描いてきたからこそ、その場しのぎの省略には見えない。
かろうじてキスシーンはある。
途中、ルディが取り落としたコップが、地面にこぼした飲み物の上に落ち、そのまま消えていく。まあそういうことの象徴なんだろうが、まるで夢のようでもある。
原作ではルディは少しおどけたような口ぶりで揶揄したりもする。アニメ版は最小限のセリフのやり取りで、言葉少なに行為だけを進める、少女と少年の契りを美しく描いていく。
そう。驚いたことに、これらのシーンはどれも綺麗だ。息を飲む、と言ってもいい。これはエリス以外のヒロインたちとの描写のハードルが一気に上がってしまった感じがする。
そして、夜が明けた
そして朝チュンである。テントから両手を広げて出て、リア充の仲間入りさっ!と杉田ボイスで昨夜の出来事を堪能しつつ、エリスを起こしに行くルディ。調子に乗った時の杉田ボイスすごい。
エリスを起こそうと布団をはぐと、もぬけの殻。ベッドの下にはエリスの髪の毛…?サイドテーブルには手紙が。
「今の私とルーデウスでは、つり合いが取れません。旅に出ます」
ルディにとっては意味不明である。悩むエリスを観てきた視聴者は、あー、そっちいっちゃうかー、と驚きつつも納得する展開である。
アルフォンスに行き先を聞くも、ルーデウス殿には口外するなと仰せつかっております、と突き放したような返事が。
そうですか…と呆然とした面持ちで難民キャンプを歩くルディ。なんで…?捨てられた…?と、ついには子供のように泣き出してしまう。
現実(ユメ)のタイトルコールが無常である。
アニメ組からすると、えー、となるシーンだろう。そう。無職転生は、盛り上がったところでいきなり場面が転換する。シルフィは突如退場するし、ロキシーとはすれ違う。エリスはいきなり姿を消す。
無職転生は負けヒロインが存在しない物語だ。そのための伏線である。ルディは選べない。キャラ造形としてそうしていくだけでなく、読者の側も納得できる舞台を用意していく。今回のエリスの失踪もその一つだろう。
ない商業小説版では若干、負けヒロイン的な存在が増えている。自分は蛇足だと思っている。
次回は「目覚め、一歩、」
次回、2期最終回ののタイトルは「目覚め、一歩、」。6巻で終わりなら、しばらく呆然自失だったルディが気を持ち直し、ゼニスを探しに中央大陸の北部に旅立つところで終わりだ。しかしこれではあまりに3期へのつなぎとして弱い。
商業版の7巻は、ルディが冒険者としてやさぐれるという、エリスを失った代償をより深く印象付けるパートである。Web版ではサラッと済ませて、ゼニスを探す前に魔法大学に入る流れになる。ゼニスを後回しにするのは、ヒトガミのお告げがルディにとって最優先すべきことだったからだ。
3期を学園編から始めるには、23話で7巻と8巻冒頭を駆け抜ける必要がある。さて、どうなるか。
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