無職転生Ⅱ 第18話「ターニングポイント3」ネタバレ感想 さすがの神回

無職転生Ⅱ第18話「ターニングポイント3」は、家族としての生活基盤を築き始めたルーデウスが、その基盤を脅かす未来に向かって一歩踏み出す転回点。16話から絵コンテを3話続けて担当する伊藤智彦氏の力量によるものか。守るべきものは何か、を整理して提示してくれる神回だ。

ネタバレ回避のあらすじは以下。

ルーデウスへの接し方、そして学校に友達ができるなど、ノルンにも変化が見られてきた。家族との、そして大学での生活も穏やかに進んでいく。そんなある日、シルフィから告げられる事とは…? そしてある人物から届く手紙の内容とは…? さらにヒトガミの新たな“助言”とは…!?

https://mushokutensei.jp/story/2-18/

人生の転回点三度

ターニングポイント3は、これまでのターニングポイント1、ターニングポイント2と同様に、スピード感のある脚本と演出で一気に駆け抜ける。日常を中心に描く回なのに、ダレるところは全くない。

ネタバレなので、今回は構造から書こう。アバンはノルンとの関係改善のシーンからだ。Aパートで日常の描写を経て転回点となるギースからの手紙「ゼニス救出困難。救援を乞う」を挟んでBパートでルーデウスの苦悩を描き、さらに特殊エンディング後のCパートでノルンとの信頼関係を見せる。

途中にあるヒトガミの助言は、要するにベガリット大陸には行くな、というものだ。ベガリット大陸で合流するロキシーが生むルーデウスの子は、ヒトガミにとっては敵となる。それを阻むための一手だ。なお次のターニングポイント4も、同様の目的でヒトガミはルーデウスをそそのかす。

ここでゼニスの救出に行かない、という選択をルーデウスが採ってしまうと、当然ノルンとの関係は破綻するだろう。ノルンのためだけに旅に出るルーデウスではないが、構造が強いので自然と納得できる。家族として逃げずに向き合ったからこそ、ルーデウスはベガリット大陸に向かい、ヒトガミの思惑を外す。本気でしか戯言からは逃れられない。

ノルンとルイジェルド

さて改めてアバンの話。ルイジェルドの槍の話からだ。

1期でルイジェルドをはじめとするスペルド族の汚名を晴らそうと決心したルーデウスは、そのために本を執筆してフィギュアと一緒に配布しようとしていた。勉強を教わっているときにそれを見つけたノルンさん、私にも手伝わせてもらっていいですか?と助力を申し出る。

ノルンがルイジェルドに対して感謝以上の気持ちを自覚し始めるのはまだ先の話だが、これからノルンが書くスペルド族の物語は人の心を打つ力を持ち合わせるまでになる。

アイシャとデート

ノルンの次はアイシャ。ノルンにばかり構っている感じのルーデウスは、アイシャを気に欠けて「言いたいことがあれば言っていい」と希望を聞く。アイシャの答えは「お給料をください」だ。

家事手伝いの給料を、アイシャはきっちり使い切る。園芸品を買い、残りのお金で可愛らしいカーテンを値切って手に入れる。値切るときは、アリエル王女にも認められた魔術師ルーデウス・グレイラットの妹、と貴族筋の名前を出し、交渉を成立させる。

商売上手というか何か恐ろしいものを感じる、と独り言つルーデウス。アイシャは今後の戦いで重要な別働隊を率いることになるので、伏線と言えば伏線だ。

ナナホシの実験

今度はナナホシの日常へ。次は有機物を召喚するわ、と意気込むナナホシさんである。前のペットボトルも有機物なのだが、まあ高校生の知識なのでよいでしょう。原作からしてそうなので、細かいことは気にしないようにしよう。

ここでのポイントは召喚する有機物について「食べ物がいいわね」としたことだ。「ナナホシ焼き」のエピソードはアニメ版では割愛されているが、故郷の食に対する渇望はナナホシの哀しさを印象付ける。

無職転生のターニングポイントにおけるナナホシの存在は大きい。1期のときはナナホシが軸だったとさえいえる。

ザノバとジュリ、そしてジンジャー

ザノバのフィギュア造りは順調のようだ。一体をジュリへのプレゼントとして完成させる。その傍らで、ノルンとアイシャをルイジェルドさんと一緒に護衛してきたジンジャーがザノバに仕えることになったことが語られる。

ルーデウスからすれば、なぜそこまでしてジンジャーがザノバに奉仕するのか納得できないところがある。その理由を説明するために、人形のためにザノバに売り払われたジンジャーのエピソードがルーデウスの回想シーンとして再生される。

そこまでされて、どうしてザノバに忠誠を誓っているのか?、というルーデウスの問いに、ジンジャーは「ザノバさまの母君より直々に頼まれたから」と答える。それで?とその先を聞こうとするルーデウスに、それだけですが?とジンジャー。これは原作でも同じだが、これもまた家族の在り方なんだろうな、と聞いたままに納得するルーデウスである。

この「家族の在り方なんだろうな」という納得の仕方はアニメ版で初めて見た。

原作では、ジンジャーはルーデウスに忠言してザノバに〆られるシーンがある。ルーデウスが気安い態度でザノバに接するので、ジンジャーがルーデウスをやんわり咎める。ザノバは激高し、ジンジャーは喉を潰され肩を砕かれるというなかなかの扱いを受けてしまう。

原作でのルーデウスの納得の仕方は、何だかよく分からないが封建社会は一部のサディストと多数のマゾヒストで構成されていると漫画で読んだ、マゾだと考えれば理解できるがそんな下世話な話ではないだろう、というもの。アニメ版では〆られるシーンはカットされているので、家族の在り方、という2期のテーマに沿った脚本にしているのだろう。

クリフ先輩の魔道具開発

続くクリフパイセンは、エリナリーゼさんの呪いを抑える魔道具の開発に勤しんでいた。アニメ版だと分かりやすいが、相撲のまわしのような形態。問題点は二つ。ダサいことと、魔力の消費量が多すぎる、だ。

ザノバとサイレントことナナホシのおかげで小型化のめどはついているそうで、ルーデウスの魔力でテストさせてもらう、と協力を求めるクリフ先輩である。

シルフィの懐妊

これまでを振り返って、最近いい生活をしていると思う、とルーデウス。生前で俺が得られなかったものだ、と感慨深げなところに、シルフィーからおめでた報告を受ける。

シルフィのお腹に触れ、言葉が出ないルーデウス。アイシャに「奥様に一言、言うべきことがあるのでは?」と促され、ようやく「ありがとう」の言葉を絞り出す。シルフィは「えっ?ありがとう?」と戸惑い気味だ。

原作の心理描写では、おめでとう?違う、そうじゃない、とした上でありがとうの言葉をかけている。すごい嬉しいが言葉としての正解が分からない。記憶をたどってパウロがノルンができたときに「よくやった」「でかした」と声をかけていたことを思い出すも、なんでそんな上から目線なんだ?と混乱するルーデウスである。これは時代というか世界の違いから来るものなので、子供ができた時に男はどう反応すればよいのか分からない、という心の動きが臨場感がある。アニメ版では心理描写が無い分、あー分かるわー、と自然に受け取れる演出だったように思う。

ギースからの手紙とヒトガミ

幸せを噛みしめているルーデウスの元に、手紙が届く。

「ゼニス救出困難。救援を求む」

パウロからの手紙で何とかなりそうだ、となっていたトーンとは打って変わって、ルーデウスの助力が無ければ打開できない状態になったようだ。ここでAパートが終わり、CM明けはヤツの登場だ。

ヒトガミは前の出現で、ベガリット大陸に行ったら後悔する、と言っていた。

そこでED治療のためにラノア魔法大学に通ったわけだが、行かなかったことで事態が悪くなったためルーデウス、もとい前世の男は激怒する。騙したな、と憤るがヒトガミは相変わらず行かないほうがいい、の一点張りだ。

ベガリット大陸に行かずに実行すべきお告げは、発情期にリニアとプルセナが迫ってくるのでどちらかと関係を持て、というもので、前世の男はシルフィーに操を立てるしリニア/プルセナとはそういう関係ではない、と反発する。

ルーデウスが目覚めると心配そうなシルフィー。ルーデウスはさっきのお告げを反芻し、それは置いてもベガリット大陸に行くと1年はかかり、シルフィの出産に立ち会えない、と悩む。

エリナリーゼさんは旅支度を始めている。ザノバは、不安なら行くべきで、シルフィーたちは自分が守る、と頼もしい。自分がいなくても大丈夫、いや一緒にいて守ってやるのが役目、と揺れるルーデウス。特殊エンディングで逡巡するルーデウスが描かれる。

そしてCパート。早朝、人目を忍んで旅支度をして出ていこうとするノルン。

「兄さんが行かないなら、私が行こうと思ったんです」

強くて旅もできるのでなぜいかないのか、とルーデウスに泣きつくノルン。信頼関係ができているので、責める口調ではない。純粋な慟哭だ。10歳なのでやっていることは滅茶苦茶である。

思い直したルーデウスは、家のことを任せていいか?とノルンに声をかける。アイシャと喧嘩せずにシルフィを助けてやってくれ、というお願いに「はい」と答えるノルン。

「お願いします。兄さんっ…!」

「俺は、家族を助けに行く」

ベガリット大陸は迷宮都市ラパンに向かう決心を固めたルーデウスだった。原作では「ベガリット大陸に行く」という台詞だし、お願いします、というノルンの言葉もない。このアニメ版のやり取りは、これまで描いてきたノルンとの関係の集大成となるシーンで、ターニングポイント3のクライマックスにふさわしい。

ありがとう、「ノルンとアイシャ」「兄貴の気持ち」「ターニングポイント3」と3話連続で絵コンテを担当した伊藤智彦氏。さすが監督クラスである。『HELLO WORLD』も好き。

次回は「砂漠の旅」

次回のタイトルは「砂漠の旅」。要はベガリット大陸の話になるが、普通に行けば1年かかるところをいきなり旅している。原作小説版の11巻が一気に終わりそうだ。原作組とアニメ組で「どうするの?」という興味の対象が違いそうなのがちょっと面白い。

コメント

タイトルとURLをコピーしました